宿野 かほる。 『ルビンの壺が割れた』(宿野かほる)_書評という名の読書感想文

宿野かほる 『はるか』

宿野 かほる

『ルビンの壺が割れた』の書籍版が出ていたので、読んでみました。 内容についての感想は、キャンペーン版から特に変わらないのですが……。 このうち、。 しかし……。 私はこのインタビューを読んで、ヘナヘナと腰が砕けてしまいました。 というのは、作者自身が、この小説の価値を的確に理解していたからです。 〈遊び半分で書いたのが、この作品です〉 〈原稿を読んだ友人たちは面白がってくれ、「新人賞に応募してみたら」と勧めてくれましたが、わたし自身は、そんなレベルの原稿ではないと思っていました〉 〈ミステリー風ですが、ミステリーではないし、ホラーの要素はあるものの、ホラー小説でもありません。 一般的なエンタメ小説の枠からも大きく外れています。 それで、応募する新人賞を見つけられなかったのです。 そもそも新人賞などという厳しいレースを勝ち抜ける作品とは思っていませんでした〉 〈「本にしたい」と言っていただいた時も、最初はお断りしました〉 ええっ! この個所を読んだ時、私は驚きました。 確か版元のキャンペーンの文章では、次のように書かれていたからです。 読者のみなさまへ ここに公開するのは、ある日突然送られてきた、まったく名前の知られていない著者による、刊行前の小説です。 編集部に「ある日突然送」ったのは、「まったく名前の知られていない著者」自身じゃなかったの? どうやって御社に原稿が渡ったのか、ということについて細かく言うと、わたしや友人たちのことを詳しくご説明しなければいけなくなってしまうので、それについてはここでは差し控えさせてください。 申し訳ありません。 ここを読むと、「友人」の一人からなんとなく編集部に伝わった、くらいに読めてしまう……。 まさかそんなところにトリックがあったとは!いやあ、すっかり騙されてしまいました。 ではなぜ、作者はこの小説を刊行しようと思ったのでしょうか。 何度も作品を褒められるうち、「」という言葉がありますように、愚かにもわたしもまたブタのようにその気になってしまいました(Nさんの上手な誉め言葉のせいということにしたいです)。 私はこのインタビューを読んで、小説を読む時の基体、ということを考えました。 ふつう、作者がなんらかの意味で、マジメに書いたと思うからこそ、読者としての私も、マジメに(少なくともつもりとしては)読み、何か意見があったら、それを真摯に述べる、でも、〈遊び半分〉といわれると、どうもマジメに読もうという気分が、乗ってこない。 私がマジメにボールを投げても、それを受け止める基体が、存在しない、と思われるからです。 たとえば、ネコがキーボードの上を歩いて、文章ができた。 偶然(まぐれ)によるその言葉が、面白かった、と、私が賞賛することは、できます。 でも、それがつまらなかったからといって、ネコに、「さっきの文章、いまいちだったよ」ということは、できないのです。 つまり、マジメに書かれていない作品というのは、勝手に賞賛を送ることはできても、批判を受け止める基体が、存在しない。 もちろん、実の作者と、バーチャルなモデルとして仮構される作者像は、違う。 でも、作品に対する評価は、私と実の作者とで、おおむね一致しているのです。 それは、単価1000円の本が、たとえば5万部売れたとして、10%の印税(一説によれば新潮社の場合書き下ろしは12%)で考えれば500万円前後に、〈遊び半分〉が化けるとしたら、たいていの人は、悪い気はしないでしょう。 「あえてやってるんだよ」といわれれば、それまで。 では私は、どこに向かってボールを投げればいいのだろう。 「担当編集N」氏でしょうか。 でもそれこそ、輪をかけて、のれんに腕押し、というもの。 こう考えてきて、私は、なんとなく、この作者の方は、それでも、こうしたボールを受け止めようとするだけの感覚を、お持ちなのではないかという、気がするのです。 それは、インタビューにおける関係者への気配り、だとか、書籍版で改変されたあの最後の一行(あれは完全に蛇足だと思うのですが、ドライに徹しきれずに的完成度を低めてでも勧善懲悪にヌルめて世情を落ち着かせようというところに、どこか人の良さを感じてしまう……)だとかから、わずかに感じ取るのです。 もし、そうした感覚をお持ちだとすれば、先に申し上げた、〈遊び半分〉に書かれた作品は、批判も受け止めきれない代わりに、賞賛も本当には、受け止めきれない、ということ、つまり、を受け止める基体が、実は自分にはなく、ただ虚しく身体を通り過ぎてゆく、ということにも、いずれ、気づかれるのではないかと思うのです。 人気が出たら第二作がどうこうという話は、私にはどうでもいいのですが、もし、作者がこの「虚しさ」を受け止め、はかされた下駄を自ら脱ぐ時がくるならば、その時、〈遊び半分〉だった「」という人格は、真に、小説家としての基体を獲得することになるでしょう。 これは梯子を外された感じで、もし何も知らず、この小説を読んだ読者が、半年後、一年後、この先いたとしたら、いったいどのようにこれらの賞賛の言葉が集まることになったのか、不思議に思われるのではないかと思います。 そこで、その読者の理解の一助のため、を貼り、以下、発売前PR時の文言を、もし、検索でここまでたどりたいた方がいらしたら、という場合を想定して、引用させていただきます。 《担当編集者からお願い》 「すごい小説」刊行します。 キャッチコピーを代わりに書いてください! 読者のみなさまへ ここに公開するのは、ある日突然送られてきた、まったく名前の知られていない著者による、刊行前の小説です。 ものすごく面白く、そして、ものすごく奇怪な小説でした。 あまりにすごいので、私はいまだ、この作品にふさわしいコピーを書けずにいます。 よろしければ、この小説をお読みいただき、すごいコピーを書いていただけませんか。 (ただし結末は絶対に明かさないでください) なお、以下からお読みいただける〈キャンペーン版〉は、2017年8月22日に刊行予定の本を2週間限定で事前公開するものです。 よって、まだ修正途中の原稿であり、2週間が経つと消えてしまうものであることをご了承ください。 詳しいキャンペーン案内はこの小説本文の後に付しました。 まずは、この稀有な小説を、ぜひお楽しみください。 そして、みなさまのご応募を、心よりお待ちしております。 担当編集者 拝 〈ご注意〉本作品の全部または一部を、無断で複製(コピー)、転載、改ざん、公衆送信(ホームページなどに掲載することを含む)することを禁じます。 キャッチコピー案を応募する 【プレゼント】5千円の図書カード&あなたのキャッチコピーが帯になった特装本 社内でも驚嘆の声続々 小説にKO(ノックアウト)されるとは、まさにこの作品のことである。 (殺人事件)クラスの衝撃!! 少なくとも年に100冊は小説を読みますが、ここ5年で最も驚かされた作品。 この夏、新潮社が総力を挙げてお届けする、全く新人の匿名作家の小説です。 まあ、騙されたと思って、読んでみてください。 必ずや、あなたは騙されるでしょう。 冒頭は氏の名作『』を彷彿とさせる大人の男女のやりとりに胸がドキドキ。 そのうちに奇妙にうねりだす読み味に、ページを繰る手が止まらなくなり、最後には、ただただ絶句……。 たとえこれが他社本でも、間違いなくお薦めしますね。 絶対に読み逃さないでください。 読んだ人にしかわからない、この衝撃体験を共に語り合いたいです! なんの予備知識もなくこの物語を読めたのは、本当に幸せだった。 この作品に関しては、どんな些細な一言も、何らかの先入観になり兼ねない。 迷っているなら、今すぐページを繰るべきだ。 決して損はさせないから。 これから、まっさらな状態でこの作品を読めるなんて、本当に羨ましくて仕方ない。 担当編集者に薦められ、ついゲラに目を通したら一気読み! 短い中にこれでもかというぐらい何度も予想を裏切る展開が繰り返され、読了後はしばしボー然。 このとてつもない読後感を誰かと共有したく、すぐに席で声を挙げました。 「お~い、これ誰読んだ~?」 「話が違う!」という言葉が、いい意味で口をついて出たのは、50年生きてきて初めての体験でした。 あらすじはおろかジャンルも、未読の人に絶対に「本」です。 まさに一気読み!! ページを繰るごとに妖しさを増す書簡の応酬に本を閉じられない!! 大満足の読書体験をお約束します。 この作品、売れる予感しかしない!! 圧倒的に読みやすく、それでいて超面白い!! 人の秘密を垣間見ているようなスリリングな読書体験に、読みながらドキドキとワクワクがとまりませんでした。 「とにかく読んでみて!」と人に薦めたくなる小説です。 シンプルなプロットなのに、オセロの石がぱたぱたとひっくり返っていくようなどんでん返しの連続に瞠目。 さらに……ラストまでいくと、まったく新しい貌が立ち上がってきます。 読み終わった人と、この本について語り合いたい! そんな思いにかられるミステリーでした。 人間はどこまで「化けの皮」をかぶれるのだろう。 身の毛がよだち、悪寒が走る戦慄の仮面(ペルソナ)小説。 男女ふたりのメールの秘密は、ミステリーを800冊以上(たぶん)所蔵している私の、どの書棚にも分類不可能なものでした。 秘密が明かされていく過程で、自分史上MAXの興奮を味わいました。 一気に読みました! 「ルビンの壺」の絵を見たときのような「図」と「地」の関係性の変化にドキドキしました。 読後に誰かと語り合いたくなること間違いなしです! 空間で繰り広げられる、男女の世界。 かつての恋人と、でつながってしまうと、こんなことになるのか…… 『』を彷彿とさせるような展開に、「エライもん読んでしまった!」という読後感です。 心臓に悪い小説です。 昔の恋愛を回想追憶する手の小説かと思いきや、「?」と「!」が交互にのように押し寄せてきて、頭はフル回転で熱くなり、背筋はどんどん冷たくなって終いに全身フリーズ状態。 ……読んでください。 驚きます。 出版社の腕を試される1冊になる……と身震いしています。 こんなにも期待を抱かせる小説に巡り合えること。 これこそ、小説を売る仕事の醍醐味でしょう! 読み終えた直後から、この本が話題になっていく未来が目に浮かぶ! あーもう、ワクワクが止まりません! (追記 2018年2月6日) 物書きとして食えなくなったら、今まで耳に入った文壇ゴシップ&タブーとかを全部あたりに売り払って退職金代わりにするつもりでもいる。 去年、老舗版元が「凄すぎてコピーが書けない」とかぶちあげて売り出したの正体とか。 大藪賞落ちて人生ヤケクソなんだよ。 — ・文庫版「卑怯者の流儀」発売中 ash0966 kkkbest.

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『ルビンの壺が割れた』(宿野かほる)の感想(354レビュー)

宿野 かほる

書き下ろし 一気読み 10才の賢人とはるかは海辺で出会い、2年後に再会して恋に落ちるがはるかははアメリカへ行く。 7年後の約束の再会はすれ違い、27才になってやっと再会できて結婚するのだが、翌年はるかはあっけなく事故死する。 賢人はプログラマーとして成功し、11年後に秘書の優美と結婚して独立し、 AIの開発に挑む。 こういうのはありそうで不気味。 はるかは賢人が再婚したことを嘆き、嫉妬し、離婚してとせがみ、優美が応じないと知ると、優美が不倫していると嘘をつき、殺害までさせようとする。 終盤一気にミステリーめくが、はるかは優美にメールして賢人を本当に愛していると知って自分の行いを恥じ、自らプログラムを削除して消えるという結末はあっけなさ過ぎ。 もっと、ドロドロ、スリリングな展開にできそう。 でも、AIは嘘をつけないんじゃなかったっけ?しかも最期の1行が暗示するのは、ホラー?? 物語としては面白い。 SNSの中で恋をすることも多いのだから、金儲けできそうだとなると、似たようなことは起こりそうだ。 そういえばAI女子校生りんなっていたな、どうなったんだろう。 ルビンの壺とは、見方によって壺にも、向かい合った人にも見える一種の騙し絵のことだそうだ。 本作は、かつて付き合い、結婚直前まで行った男女の往復書簡の形で語られる小説である。 基本的には男のメッセージに相手の女が返信し、さらにその返信に男が応答する形で話は進む。 往復書簡といっても、Facebookでかつて の恋人(らしき女性)を発見した男が、Facebookのメッセージを送信して話は始まる。 Facebookというのがすこぶる現代的ではあるけれども、内容は手紙での往復書簡とさしたる違いはない。 読んだ感覚としては、メッセージというよりも、電子メールでの相互のやりとりといった印象がもっとも近い。 本作は発表当時から、評判が毀誉褒貶相半ばしていたということだが、読んでみればそれもわかる。 そのせいか、編集担当があとがきで「本作はミステリーではない」とわざわざ断っている。 たしかに本作をミステリー小説として読むと、内容的にはアンフェアになってしまう。 しかも、「犯人は誰か」あるいは「犯人はなぜ殺人を犯したのか」といった趣向の物語でもない。 どんでん返しという評価も目にするが、一気に話を転換するというよりも、物語の進行と男女の視点の切換えに合わせて、見えてくる物語の風景が絶えず変化していく類の小説である。 ゆえに、あとがきにもある通り、この小説を既存の特定の分野に分類することは難しい。 つい先日、井上ひさし氏の『十二人の手紙』という書簡形式の小説を読み、実験的な小説であるとレビューに書いたが、その意味では本作も実験的意欲に満ちた小説といえる。 書簡形式は、実験的な小説を書くのに適しているのかもしれない。 とある男性が、結婚式の直前に失踪した女性(と思われるアカウント)をFacebookで見つけて、過去の謎を解き明かそうと試みるところから話は始まるが、書簡のやり取りの中で、次々と別の謎が明かされ、謎は多重化してゆく。 それらは単に積み重なってゆくのみならず、互いに関連しあい、あるいは関連しているように見せかけながら、そこに別の謎が加わったりする。 小説とは、「話者」の視点を通してしか読者は物語の世界を見ることができないという特性を備えている。 この特性を最大限に生かした小説のひとつが、本作品ということができる。 さらに言えば、往復書簡の形式ゆえに、話者も男女が切替る。 するとルビンの壺よろしく、見える風景が全然変わってしまうのである。 読者は、当然、そのときの話者の視点というトリックに翻弄されることになる。 本作品が企んだ「読者を翻弄する」ほどの騙し絵に心地よく騙されるかどうかで、本作品への評価は変わるのだろう。 必要以上に自分が求める結末を期待しないほうがいいかもしれないし、あらかじめ騙されることへの心構えを持って読み始めるのもいい。 提示される謎はしばしば唐突で、そのくせ一つひとつの謎が物語の風景をがらっと変化させるほどの重みを持っている。 だから、美術館で数々の騙し絵を見て回るがごとく、騙される自分自身を楽しみながら読み進めればよいのではないだろうか。 その意味で、あとがきに書かれているように、ミステリー小説だと構えて読み始めることだけはお勧めしない。 『ルビンの壺』とは、壺の様にも見えるし、男女が向かい合った様にも見える絵のこと。 ちょっとしたことで、今まで見えていた構成がガラッと変わる... 水谷一馬と結城未帆子、50代後半のふたりのFacebookのやり取りで構成される小説です。 比較的短い小説なので、あっという間に読めます。 30年前、 かつて結婚式を間近に控えたふたり。 しかし、結婚式の当日、彼女は、姿を見せなかった。 なぜ、一体彼女に何が起こったのか? それから30年の時が流れる。 偶然、彼はFacebookで彼女を見つける。 そこから始まるふたりの会話 メッセージのやり取り。 まさしく、1ページ毎に状況がガラッと変わります。 前回は、彼女 彼 の方が悪いと思っていたのに、次々と新たな事実が明らかとなり、全く逆の様相を呈します。 どんでん返しの連続が続く、不思議な小説ですね。

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宿野かほる『はるか』ネタバレ感想!【ネタバレ対策あり】

宿野 かほる

『はるか』のストーリーあらすじ 賢人は小さな頃、海岸で一人の少女と出会う。 彼女の名は「はるか」。 一瞬で鮮烈な印象を残した彼女を、賢人はいつしか好きになっていた。 それから30年以上。 長じて人工知能の研究者となった賢人は、ある画期的なAIを生み出す。 近未来の愛を予言した、衝撃の恋愛小説。 主人公の賢人は、小学生時代に珍しい石「メノウ」を探しに海岸に行って、そこではるかという少女に出会う。 彼女は賢人が何年探しても見つけられなかったメノウをなんとその場で見つけてしまい、その石を賢人にくれる。 はるかは東京から来た女の子で、夏休みの間何回か会って遊ぶようになっていた。 そしていつしか、2人は恋に落ちる。 しかし、はるかの父親が仕事の関係でアメリカに行くことになり、7年もの間離れ離れになることになってしまう。 はるかと賢人はその間も手紙のやり取りをしようと約束するが、もしそれが上手くいかなかったら、7年後の今日、この海岸でまた会おうと約束した。 メノウをはるかに預けて。 はるかは賢人に宛ててこまめに手紙を送ってくれるが、どうやら賢人の返事の手紙がはるかに届かない。 はるかから届く手紙に、毎回返事が来なくて寂しいと書かれているのだ。 そして時は経ち7年後、ふと思い出して賢人は海岸に向かう。 するとそこには口紅で「さようなら」と書かれたメノウが。 はるかが来たことを確信した賢人だが、探し回ってもはるかは見つからなかった。 その後、賢人とはるかは奇跡的な再開を果たすが… と、序盤はこんな感じです。 上の引用あらすじにもあるように、この話はAIと恋愛がメインのストーリー。 ただAIのことまであらすじを語るといきなりある種のネタバレになるので、控えました。 ジャンルとしては、恋愛サスペンスというのがふさわしいと思います。 『ルビンの壺が割れた』と同じく、1時間から2時間あれば読めちゃう一気読み本ですね。 ここまでで興味を持った方は、ぜひ読んでみてください! 2019-04-30 13:51 カテゴリー• 335•

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