お ひぃ しゃ る ヒゲ ダンディズム 歌詞。 日記バックナンバー、1998年分

【Official髭男dism/ゼロのままでいられたら】歌詞の意味を解釈!タイトルの意味が愛に溢れている。

お ひぃ しゃ る ヒゲ ダンディズム 歌詞

私がすごく下品で卑猥な言葉を言いながら、 貴方の前に私のそれを見せつけて、いやらしく動くのを見たいのね。 いいわ・・・いいわよ、貴方がしてほしいんなら。 ほら、こうして・・・貴方のすごく太くて固い・・・お・・おちん・・ちん、 入れてあげるわね」 YOUは俺の恥根を、細い指で手繰り寄せ、ぐっと握りなおすと ゆっくりと割れた性器に押し当てた。 「んは・・・すごく大きくて・・・こんなの初めてだわ。 ほら、見える?私の・・・あ・・穴、私の・・私の・・・」 「何の穴?」 俺はYOUの顔を見上げた。 YOUは恥ずかしそうに眼をそらし 「うう・・・やっぱり、聞きたいの?そんな卑猥な言葉・・・言ったことないの」 と小さく言った。 「俺がはじめて聞けるなんて!それもYOUの素敵な声だから、最高だな」 俺はもう一度背中を押すように言ってやった。 YOUはやっと観念したようだ。 宛がったものを少し押し込み 「はぁぁ、恥ずかしくて、おかしくなっちゃう! お・・お・・・おま・・・おまんこの穴に入れてるの見えてる? 私の手で、こうやって宛がって、刺し込もうとしてるの。 怖いくらいに貴方のおちんちんが大きく勃起してて こんなに濡れてても、私の穴・・・お・・まん・この穴が裂けちゃいそうなの」 YOUは、さっきの知的で優雅な顔とはまるで別人のように 官能に陶酔した女の眼で俺を見下ろしてきた。 「貴方・・気持ちいいの?ね、私のお・・おまんこで飲み込まれると気持ちいいの? あああ・・・入ってくる!奥に・・奥に当たって・・・気持ちいい!」 ほとんど遮るものが生えていないピンク色の粘膜の谷に 俺の恥根がすべて入り込んだ。 その時のYOUの姿はきっと俺の脳裏から消えることはないだろう。 YOUはそれから、夢中で腰を振り、美しい喘ぎ声を上げ何度も頂点に上った。 「逝っているときのおまんこは、男にとって最高に気持ちいいんだ。 中がぎゅっと締まって膣の襞が全部男に絡み付いてくるみたいになる。 YOUのおまんこってそれに加えて、すごいうねり方になるんだね。 俺、こんなに気持ちいいの初めてだよ。 YOU!最高だ!」 逝っても止めないでほしいという意思を伝えると、 YOUは意味の分からない言葉を発し、ビクビクと震えた。 しかし、さすがに俺もこれを続けていると耐えるのも限界になってくる。 「YOU、もうやばいよ。 俺、気持ちよすぎて。 このままじゃ・・・」 俺がYOUを上からどかそうとすると 「こ・・このまま、逝って!ね!お願い。 私が逝かせたい! ナマのおちんちん、入れたのも初めてなの。 ね、このまま、ね、いいでしょ?中で逝ってほしいの」 といって俺の上から降りようとしない。 「え・・・大丈夫?妊娠しちゃうんじゃないのか」 「いいの。 ね、今夜はほしいの!はぁぁぁ・・・ チコさんの・・・せ・・精子、私の中に入れて! 貴方の精子を私のおまんこで全部抜き取りたい。 貴方に迷惑なんてかけないわ。 だから・・だからお願い! 私も・・・私も・・・貴方の・・・子宮にかけられながら逝きたい。 あ・・・あ・・・もうだめ!い・・・逝く、、いくぅぅぅぅぅ!!!」 俺はYOUの絶頂と同時にその怒張をさらに膨らませ、 ぎゅっと締め付けうねうねとうごめくおまんこに大量の精を吐き出した。 ビクビクという恥根の動きに合わせ、YOUの身体がうねる。 しばらくの間、そうしていたが、やがてYOUは静かに俺の上に倒れてきた。 俺は身体をつないだまま身体を反転させ、YOUを寝かせてやった。 そして、YOUの髪を静かになでてやった。 「チコさん・・・私・・・本当に貴方が好き。 今夜のことで二度と離れられないわ。 でもほんとに気持ちよかったの?貴方の・・・全部出た?私で満足できた?」 そう言いながら俺を強く抱きしめた。 「俺もずっとYOUを離さない。 本当に素敵な女だから」 とキスを返した。 「嬉しい。 うれしいわ!貴方に抱かれて私も幸せだったわ」 「ああ。 最高の夜だよ。 だからこのまま・・もっと幸せを続けたくなる」 俺はそう言って少しだけ力を失い始めた恥根を中で動かした。 「え・・・あ・・・はぁぁぁ、だめよ、まだ・・また変になっちゃう!」 言葉とは裏腹にYOUの中心はまた俺のものを鼓舞するようにうねり始める。 「YOUが好きすぎて、もっともっとしたくなっちゃう」 「ああ、貴方。 嬉しいわ!もっと・・・もっとして!私ももっとしたいの! どんなことでも貴方の思うとおりにする!だから・・ずっとして! これからも私で、たくさん、たくさん気持ちよくなって!」 俺たちはその夜、眠ることもなくずっと朝まで身体をつないだまま 獣のように愛し合った。 俺はその間に3度の射精をしYOUは数え切れないほどのエクスタシーを体験した。 カーテンを開け放したままの窓から朝日が射し込んでくる。 裸のままのYOUはゆっくりと起き上がりその窓のほうに歩き出した。 俺は大きな窓から街を見下ろすYOUの身体に、白いシーツを巻きつけた。 「ありがとう・・・」と小さく呟いたYOUが突然歌いだした。 YOUの美しいアカペラの歌声が心の奥に響いてくる。 俺も彼女の歌声にハーモニーをかぶせた。 「今日はお仕事休んで、ここに居たいわ」 俺の胸の中にゆっくりと頬をつけてきたYOUに、俺が 「そうしよう。 俺もずっとYOUを抱きしめていたいからね」 というと、うっすらと涙を浮かべた顔を持ち上げ 「嬉しい!」と呟いてまた俺に胸に顔をうずめた。 あれから半年。 俺とYOUは、いまだにRPGを一緒に攻略している。 だが一つあの日から変わったことがある。 「チコ、今よ。 全力でBOSSに攻撃して!私が援護するから」 そんな声が俺の部屋に響くようになり、 チャット機能を使うことがなくなった。 このBOSSを倒したら、 いつものようにYOUをたくさん恥ずかしがらせて眠ろう。 この時期の沖縄は比較的旅行客も少なく、俺の選んだホテルも 50%ぐらいしか客室は埋まっていないようだ。 だからこそ俺はこの時期の沖縄が好き。 いい部屋に安く泊まれて、サービスもいっぱい。 海外に行くよりも、ずっと居心地がいいのだ。 今回の旅行の目的は、そんなリラクゼーションを求める他にもうひとつ。 それは出会い目的ではじめたメール交換相手と直接会うことだった。 時間を厭わず遠い島まで会いに行き、南国のリゾートホテルで一夜を共にする。 もしかしたら行きずりで短い時間を過ごす相手との味気ないセックスとは違った、 甘くロマンチックなプチ恋愛になるかもしれないと 乙女のような夢を持ってここにきた。 だが、現実はそんな甘いものじゃなかった。 俺は出会い系サイトのプロフィール欄に載っていた 自称『南国のプリンセス』という美女を到着ロビーで探した。 しかし、そんな女は見当たらない。 いるのは子供連れの夫婦と、胸元バックリのスーツを着たオバQ顔のおばちゃんだけ。 (まさか、あの気合満点のおばちゃんが?) と思っているうち、そのおばちゃんが携帯を打ち始める。 俺は慌てて物陰に隠れ様子を見ていると、 『どうしたの、まだかな?南国のプリンセスが首を長くして待ってるわよ』 とメールが着信した。 間違いない、俺はだまされたのだ。 まぁ、俺の方も5年前の写真を送っていたからお相子ともいえる。 だが彼女は俺の知らないグラビアアイドルの写真でも使ったと思われる。 もし仮にあの出会い系の写真が本人だとしてもおそらく20年はサバ読んでいるだろう。 俺は悪質な詐欺に引っかかったような気分で、 彼女に見つからないよう別の便の客にまぎれて空港を後にした。 期待を膨らませていた彼女に申し訳ないとも思ったが、 俺は空港からホテルに向かうタクシーの中から、 『今回の旅行は所用で急遽、中止になったので帰る』というメールを彼女に送った。 それから何度も愚痴とも恨みとも取れるようなメールが返ってきたが、 俺はことごとく無視し、最後には携帯の電源を落としてしまった。 こんな事は出会い系ではよくあること。 期待した俺も悪いし、言いにくい事を言わずに騙していた彼女も悪い。 傷ついたのはお互い様。 でも時間と金をかけてここまで来た俺の方が圧倒的に大損した気分だ。 出鼻をくじかれ落胆に沈んで約30分後、俺は宿泊先のホテルに着いた。 憤懣やるかたない気持ちのままホテルのフロントでチェックインをしていたその時、 俺の気持ちが180度ひっくり返った。 思いがけず、これぞ『南国のプリンセス』と呼べる女性に巡り合ったのだ。 少し浅黒くて目がパッチリとしたルックスは あの出会い系のプロフィール欄に載っていた美女によく似ている。 そしてボリューム満点のバスト、くびれた腰…どこをとっても完璧だ。 このホテルの従業員らしい彼女に見ほれていると、彼女の方から俺の方に近寄ってきた。 (ああ、神様は俺を見捨てなかった…)と思っていると 「ようこそ南国リゾート、サンセットホテルへ。 私、お客様のお部屋のルームサービスを担当するYOUと申します」と自己紹介してくれた。 かつて日本中の男の目を釘付けにしたアグネス・ラムを彷彿させる『南国のプリンセス』は すぐに俺の荷物を持って、驚くほど広いセミスイートルームに案内してくれた。 いい女に巡り合い話しかけられるだけで気分が一変。 我ながら呆れてしまうが、男なんてだいたいこんなもんだ。 ここはリゾート地、旅の恥はかき捨てとも言う。 せっかくの旅を最高のものにするため、俺は何としてもこの『南国のプリンセス』と 夢に見たロマンチックな夜を過ごす!と心に決めた。 「俺、友人からはチコって呼ばれてます。 よろしくね、YOUさん」 部屋に荷物を置いてくれた彼女に俺も自己紹介した。 「ご滞在は4泊でしたよね。 私、その間一生懸命やりますからよろしくお願いします」 と頭を下げ、それから館内設備やサービスについて説明を始めた。 何度も来ているホテルだから大体の事は知っている。 だが少しでもYOUと同じ空間に居たくて、最後まで彼女の話を聞いた。 そして最後に「いつからこのホテルで働いているの?」と質問すると まだ3ヶ月で慣れていないと恐縮がりながら、 この時期はお客が少ないのでほとんど専属のルームサービスができると話してくれた。 「いつでもお呼び下さい。 お邪魔でなければ何度でもお掃除いたします。 よろしければお茶も入れに来ますわ」と嬉しいことを言ってくれる。 「じゃ、遠慮なく呼んじゃおうかな」と答えると彼女はニッコリ笑って、 「暇があると辛いので、ぜひ、そうしてください」と言って部屋を出て行った。 どうやら少しは脈がありそうだ。 俺の事を警戒したり嫌がっている素振りはない。 俺も彼女も時間を持て余しているらしいし、二人きりになれる場所もある。 あとはお客とルームサービスという関係を、どうやって男と女の関係にするか。 どうやら目的達成のポイントはその一点であるように思えた。 何しろ目的はロマンチックな一夜を過ごす事だ。 強引な行動や彼女の立場が悪くなるような事は慎み お互いに惹かれあうように結ばれる、そこが大切なのだ。 俺はとりあえず部屋を出て、館内のレストランに向かう事にした。 そこに向かう間にYOUを探し、偶然会ったようにすれ違う。 「あら、お出かけですか?」と声をかけてくるYOUに 「お腹がすいたから何か食べようと思って」と答える。 「どちらでお食事されます?」と聞くYOUに 「YOUさんのお勧めがあれば、それを食べてみたいな」などと調子を合わせた。 それではとYOUがいくつか候補を挙げた中から選び、俺は食事を済ませた。 部屋に戻る時にもYOUを探し、どれだけ満足したかをやや大げさに話す。 お互いの好みや性格を知る上で、食事の話題はまず外せない。 何より少しでも長く会話する事が大切だと考えた。 部屋に戻って少しくつろいでいると、 サンセットホテル自慢の夕陽が見える時間になった。 俺はその時間を狙ってYOUにワインのルームサービスを頼む。 当然のことながら、海に沈む美しい夕陽はこの土地の自慢だ。 それを目の前にすれば、YOUのプライベートな話が聞けるはずと考えた。 「この夕陽を見ると、ここで生まれてよかったなって思えるんです」 案の定、YOUはお国自慢を始めた。 子供の頃に友達や家族と見た夕陽、学生時代に初恋の人と見た夕陽 そして失恋して涙にくれて見た夕陽。 予想通り、YOUは色々話してくれた。 最後に夕陽が沈みマジックアワーの光がYOUに注ぐ頃、 「俺も別の場所からYOUさんが見ていた夕陽を見ていたかもな。 でもこうして一緒に見る夕陽は、最高に美しく感じるよ」 といいながらワインを喉に流し込むと、 「まぁ、チコさんってとってもロマンチックなんですね」とYOUは微笑んだ。 「YOUさんの前だけは、そんな男になれるのかも」と笑い顔を見せてやると、 YOUは照れながらも嬉しそうに俺の方を見つめてくれた。 一日目からずいぶんYOUと話せた。 俺は布団に入りながらYOUの顔を思い出し、今日一日話した事を思い出していた。 (そうだ、明日の朝食もルームサービスで…) と考え、YOUのところに連絡を入れる。 普通なら電話で済むところを、 「すぐにメニューを持って行きます」と言ってくれた。 5分もするとドアがノックされる。 俺がドアを開けると、すでに帰り支度を終えたYOUが立っていた。 「すいません。 もう失礼する時間ですので、こんな格好で…」 と恐縮がりながらもメニューを届けてくれた。 「よかったら、中でお茶でも飲んで行ったら?」 と言うと、少し躊躇しながらも部屋に入ってくれた。 (勝負は4日間しかない。 でも焦りは禁物) と肝に銘じ、俺はYOUをソファーに招く。 すぐにお茶の用意を始めると、「それは私が…」とYOUが手を出した。 「もう仕事は終わりでしょ?だったら今はただの男と女。 部屋に招いた俺がサービスしてもおかしくないだろ?」 とYOUの顔を見上げると 「あ…そ…そうですか。 じゃ、お言葉に甘えて」 と少し落ち着かない表情になった。 (仕事できたつもりかな?)と不安になり、試しに 「明日の朝食もYOUさんのお勧めで」とメニューを返す。 でもYOUはすぐには帰らずにお茶を飲んでいた。 お互いしばらく沈黙があったあと 「あの…チコさんは彼女とかいらっしゃるの?」とYOUの方から沈黙を破ってきた。 「昔、結婚していたけど今はシングルで、彼女もいない」と俺は答えた。 「彼女がいらっしゃらないなんて…本当かしら。 でも都会には綺麗な人、たくさんいるんでしょう? チコさん、私に優しいことばかりおっしゃるけど、 こんな田舎の女なんてダメに決まってる…。 きっとからかっていらっしゃるのよね」 と月影の映る海を見ながらYOUが呟いた。 「俺さ、最近失恋してね。 それを癒しにここに来たんだけど、 YOUさんに会ったら、なんだか一気に気持ちが高まっちゃってさ。 失恋の事なんて忘れちゃったよ。 一目惚れっていうのかな?こういうの…」 と少々嘘の混じった本音を返してやった。 「そうでしたの。 チコさんが私で癒されたならとっても嬉しいわ。 でも失恋の痛みを癒されたの、私も一緒かもしれません」 と思いもよらないことを言ってくれた。 それから、一緒に残っていたワインを飲み、俺はYOUの失恋話を聞いてやった。 YOUはここで生まれ福岡の大学を出た後、そこで就職し恋愛をした。 だが、転勤になった彼氏に新たな恋人が出来、 傷ついて故郷の沖縄に戻ってきてここで働き始めたそうだ。 男性に不信感をおぼえ、女としての自信をなくしていたらしい。 そんな時、俺から気持ちの高まる言葉をかけられたのだと言う。 「俺の方こそ、YOUさんと一緒にいるだけで嬉しくなっちゃって。 YOUさんにめぐり合わせてくれた神様に感謝した位さ」 と言うと、YOUは 「ありがとう。 チコさんのお陰で私、いっぱい元気が出たのよ」 と少し涙目になって俺を見上げた。 「よかった。 YOUさんを元気づけられて俺も幸せだよ」 という言葉を聞いてYOUはちょっと顔を赤らめ しばらく無言で俺の方を見つめていたが、チラッと時計を見て 「そろそろ帰らなくちゃ。 遅くまで話を聞いてくれて本当に嬉しかったわ。 それと、これからはYOUって呼んでください」 と言って丁寧にお辞儀をし、名残惜しそうに帰って行った。 俺は夕陽を見ながら俺に寄り添ってくるYOUの夢を見ていた。 その夢を途中で終わらせたのは、YOUのノックだった。 「朝食をお持ちしました」 と言って入ってきたYOUがテーブルに皿を並べ終わると エプロンのポケットから可愛くラッピングした箱を取り出した。 「これ、昨日のお礼。 私の焼いたクッキーなの。 デザートにでも食べてくださいね」 と俺に手渡してくれた。 「YOUの手作り?うわぁ、こんなもの貰って、光栄だな」と大げさに喜ぶ。 クスクスッと笑うYOUがコーヒーを入れてくれ、俺は早速朝食を食べ始めた。 YOUは俺の食事する顔をなんだか幸せそうな顔で見ている。 「こういう時間っていいね。 美味しい朝食と美女の笑顔。 最高の朝だよ」 と笑いかけると「うふふ、私も毎日こうしていたいわ」と微笑み返してくれた。 俺が食事を終えると、YOUはすぐに窓を開け放ち部屋の掃除を始めた。 その間、俺はバルコニーに出て外の景色を見ていた。 時折振り返り、テキパキと部屋をきれいにしていくYOUを見ていると 「何見てるんですか?恥ずかしいわよ」 と言いながらも微笑み返してくる。 「YOUってほんとに可愛いよな…」と俺が呟くと 「また私のこと、からかってるんでしょ?」とYOUが手を止めた。 「そんな事ないって、素直じゃないなぁ」 「うふふ、元来へそ曲がりなの。 じゃ、今回は素直に受け取るわよ。 チコさん、ありがとうございます」 「それでよろしい」なんて会話をした。 どうやら昨日の夜の会話を経て、お互いの距離が一気に縮まったようだ。 俺はベッドメイクをしているYOUに 「今朝、夢を見たんだよな」と話しかけた。 「どんな夢?」 「夕陽を見てたんだ。 YOUと一緒に」 その時YOUが「ええ!」っと大声を上げ バルコニーのベンチに腰掛ける俺の方に走ってくる。 「もしかしてそれって…浜辺だった?」 「そうだよ」と俺がいうと、 「あ…あの、こうやって私がもたれ掛って…」 とYOUはベンチに腰掛け俺の肩に頬を乗せてくる。 「何で知ってるんだい?」と聞くと驚く事に彼女も同じ夢を見たらしい。 「私たちって、考えている事や好みが近いのかしら?」 YOUが不思議そうな顔で俺に聞いてくる。 「そうかもしれない。 でもただ気が合うだけじゃないのかもよ。 会って間もないけど、お互いに心の底では惹かれあっているからじゃないかな。 少なくとも俺はYOUに一目惚れした。 だからYOUのことを少しでも分かろうとしてるし、 俺の方を振り向いてもらおうとしている」 と臆することなく告白した。 そんな俺をYOUは大きな眼を更に大きくし、真剣な顔で聞いていた。 だが、「チコさんにそう言ってもらうのは本当に嬉しい。 でも、チコさんはもう少ししたら遠くに行ってしまう人でしょ。 私、それを考えると心がチクチク痛くなるの」 と下を向いてしまった。 俺はYOUの前に歩み寄り「俺もそれは分かっている。 だからこそこうして一緒にいられる時間を大切にしたいんだ。 確かに離れ離れになる時が来るかもしれないけど、 その先に何が待っているのか分からないだろ。 だから今はそれを恐れて、大好きなYOUから逃げる事なんてしたくない」 とYOUを抱きしめた。 その言葉にYOUも頷きながら俺を抱き締めてくれた。 顔を離すとYOUの目から涙が溢れている。 「チコさん…、離れていても私のこと忘れない?」 というYOUに、俺は「勿論だよ」と答え、そのまま唇を重ねた。 YOUは更に強く俺を抱きしめ、 触れている唇を少しだけ動かして「好き…」と声を漏らした。 それからしばらくの間、二人は唇の感触だけを感じながら抱きしめ合っていた。 そしてどちらからともなく、お互いの舌を触れ合わせ絡め合わせた。 時折喉の奥から漏れてくるYOUのエロティックな吐息に俺の興奮は高まっていく。 YOUは俺の下半身の変化に気づいたようだが、 それに逃げることなく更に身体を寄せゆらゆらと腰を動かす。 きっとYOUも俺と同じように結ばれる事を望んでいると感じた。 (今を逃しては…)と考え、唇を離し「YOU…」と俺が呟くと 「今はダメ…。 私もずっと一緒にいたいけど」とYOUは静かに身体を離す。 そして、少し残念そうな表情を見せながら 「そろそろ他のお部屋の支度もあるし、今日到着するお客様もいるの。 本当にごめんなさい。 でもまた今夜、私が仕事を終えてからお会いしたいわ。 お部屋のドアをノックしてもいい?」ともう一度、軽くキスをした。 「待ってるよ、何時まででも」というと少しためらいながらも、 ドアを開き「お邪魔しました」と頭を下げて出て行ってしまった。 時間の余った俺は、それからレンタカーを借り、午後の時間を市内観光にあてた。 知り合いのレストランで食事をしてから、 土産物等を見たりデジタルカメラで風景を撮影したり。 そして店先で見つけた可愛らしいネックレスとイヤリングのセットをYOUのために買い 夕陽が沈む頃、ホテルに戻ってきた。 部屋のあるフロアでエレベーターを降りると YOUが家族連れの旅行客を部屋に案内している。 気づいたYOUがチラッと俺に視線を送ってきたので、 お客に気づかれないように微笑んで軽く手を振ってやると YOUはそれに応え、ウインクを返して部屋の中に入っていった。 それからお酒と食事のルームサービスを頼んだが、 YOUは忙しいらしく残念ながら若いボーイさんがワゴンを運んできた。 YOUに会えるとばかり思っていたから、とてもがっかりした。 しかたなく俺は手早く食事を終え、シャワーを浴びた。 バスルームで頭を洗おうと思った時、部屋のドアがノックされる。 (YOUだ)と直感しすぐに腰にバスタオルを巻きドアを開けると、 案の定YOUが部屋の前に立っていた。 だが俺の姿を見て「ご…ごめんなさい。 後でまた来ます」と帰って行こうとする。 「いいよ。 どうせなら背中でも流していってよ」というと、笑いながら 「やだ、チコさんったら。 恥ずかしいじゃないの。 それよりさっきはごめんなさい。 お食事持ってこれなくて。 もう済んでたら片付けた方がいいと思ってきたの」 「うん、ありがとう。 じゃ、俺はYOUに嫌われないように綺麗に身体を磨いているから 下げておいてくれるかな」 とお願いすると、YOUはやっと部屋に入ってドアを閉める。 「うふふ。 じゃ、お仕事が終わったら私も磨いてこなくちゃね」 といいながら食器を片付け始めた。 俺がシャワーを続け始めると、ドアの向こうから 「あと1時間で終わると思うわ。 その頃、お部屋にいてね」 という声が聞こえ、YOUはそのあとすぐに部屋を出て行ったようだった。 俺が風呂上りのビールを飲んでいたころ、ドアのノックが聞こえた。 テレビを消し部屋の明かりを落としてから、ドアを開くと そこにはセクシーなキャミソールにデニムのミニスカートを履いたYOUが立っていた。 「どうぞ」と小さな声で招き入れると、YOUは周りの様子を確かめすばやく入ってきて 「チコさん!」と言いながらすぐに俺の胸に飛び込んでくる。 ほとんどお化粧をしていないYOUの髪からシャンプーのいい香りがしてくる。 「ずいぶん早かったね。 もう大丈夫なのかい?」と聞くと、 仕事をテキパキ終えてシャワーも浴びてきたと答えた。 「それじゃ、頑張ったYOUにご褒美」と言って テーブルの上に置いておいた小箱をYOUに手渡す。 「え?何これ」と言いながらYOUは包みを開ける。 中から出てきたネックレスをつまみ上げ 「これ私に?」と言いながらもう一度、俺に抱きついてくる。 「もちろんさ。 気に入ってくれたらうれしいよ」 「これ、モールにあるサンドラってお店で買ったのよね。 このネックレス、前から見ていたの。 これを選んでくれたなんて信じられないわ。 ほんとにありがとう。 どう、似合う?」 と早速ネックレスとイヤリングをつけてくれた。 日焼けした肌にシルバーのアクセサリーが輝き、 これこそ『南国のプリンセス』といえるほど素敵な女性になった気がした。 俺は喜ぶYOUの肩を抱き、バルコニーのベンチに座らせる。 空には数え切れない星そして満月に近い月が穏やかな海面に映っている。 一定の間隔で砂浜に打ち寄せる波の音が聞こえ、 少しひんやりした風がYOUの髪を静かになびかせていた。 「静かだね」と俺が言うと、YOUは 「とても温かくて、でも胸がドキドキしてるわ。 本当に素敵な時間…」 と言いながら夢の中のように、また俺にもたれてくる。 俺はYOUの柔らかな髪をなでながら 「昼間のキス、素敵だったね」と耳元で囁いた。 「私も仕事をしながら何度も唇に触れたわ。 思い出すだけで身体がゾクゾクしてくるの」 と俺の方を向いてくる。 「うん」と俺が頷くとYOUは静かに目を閉じ俺の唇を求めてきた。 俺が顔を近づけ唇を重ねると、YOUは強く俺を抱き寄せ 驚くほど官能的に舌を絡めてくる。 俺もそれに応え、YOUの背中をゆっくりと擦りながら YOUの口の中の隅々まで柔らかく愛撫するように舌を挿しこんでいった。 唇が離れると 「あとで遊びだったなんて言わないでね。 私、チコさんのこと本気で好きになったみたい」 と真剣に俺の目を見つめる。 「嬉しいよ、YOU。 ずっといつまでも俺はYOUの虜でいる。 信じてくれ」 と言う俺にYOUは強く頷きまたキスをしてきた。 ミイラ捕りがミイラか。 それも悪くない) 最初は不純な動機で始めたが、今となっては俺自身も、 YOUを恋の対象としか見れなくなっていることに気がついた。 「チコさんの夢、私がもたれ掛ったあと、どうなったの?」 唇を離すと上気した顔でYOUが聞いてきた。 「俺がYOUを抱きしめようとした時、YOUがルームサービスに来て起きちゃったんだ」 「あら…残念だったわね。 私のほうはね、今のような情熱的なキスをしたわ」 俺はその先を聞きたくなった。 「それだけかい?」 すると「チコさんったら、私の手を取って自分の胸を触らせるの」と恥ずかしそうに答える。 YOUの夢の通り彼女の手を取り俺の胸において 「こうしたのかな?それから?」と聞くと 「下の方にさげていったわ」と手をお腹の方に移動させた。 「どこまで下げたの?」 YOUは黙って俺の下腹部まで降ろしていき、硬く息づく男のシンボルの上で止めた。 「すごいのね、夢のより熱くて大きい。 怖いくらいだわ…」 とうっとりとした目でそこを見つめた。 「チコさん、一目ぼれっていってくれたけど、それは私も一緒かもしれない」 とYOUは俺の下半身を指先で触りながら言う。 「だって初めて会った男の人、それもお客さまなのに… 私ったらその夜にこんなことをしている夢を見るなんて自分でも驚いたの。 目が覚めてはしたないって思ったけど、まさか本当にしちゃうなんて…」と俺を見る。 「はしたなくなんてないさ。 俺を好きになって求めてくれたんだ。 どんな事より幸せなことだよ」というと静かに頷いて俺の胸に頬をあてた。 YOUはしばらく俺に抱きつきながら、MAXまで膨張したものを確かめていたが 「ね、ここじゃ落ち着かないわ。 お部屋に戻りましょ」といい立ち上がる。 俺も立ち上がり軽くキスすると、お互いの身体を密着させ部屋に戻った。 「波の音、大好きなの」とバルコニーのドアは開け放ったまま、部屋の明かりをすべて落とした。 わずかな月明かりの中、YOUは下着姿になり、次に俺の着ているものを脱がせてくれた。 「こんなに美しくセクシーな女性の姿を見たことないよ」 俺の前に立っている下着姿のYOUを見て、思ったままのことを口にする。 「チコさんがそう思ってくれてるのは、本当にうれしい…。 あなたが喜んでくれること、何でもしてあげたいの」と妖しい微笑を向けてきた。 「俺はYOUの喜ぶ顔が見られたらそれが一番」と言いかけると 「私じゃなくてチコさんに気持ちよくなってもらうの。 ここは仕事場だし。 だから今夜はチコさんに… 私の願いはチコに最高に喜んでもらうこと。 お願い、今夜はそうさせて」 確かにここでは落ち着かないだろう。 場所を変えたほうがいいのかとも思ったが、 真剣な目で俺を見つめるYOUの気持ちを優先することにした。 「うれしいよ、YOU」と身体を引き寄せ抱きしめると 「どうしてほしいの?」と耳元でささやきそのまま俺の耳を優しく舐め始めた。 「たくさんYOUの声や言葉を聴いていたいし、いっぱいエッチな姿を見たい」というと 「いいわ、チコさんに私のエッチなところ、全部見せてあげる」と俺をベッドに押し倒した。 そしてベッドに横になった俺の横に立ち、何度もキスを落としてくる。 YOUのブラジャーの肩の紐が落ち、そこから伸びた手が俺の勃起したものに触れている。 「頭がおかしくなりそうなほど…すごいのね、チコさんのこれ」 と色っぽい目で見ながらゆっくりと腰を動かし始めた。 俺に触れていない手は自分の身体を撫で、時折、胸を寄せて谷間を強調させた。 俺が胸に手を伸ばすと上手にかわし 「触りたいのね。 でもだめよ」と言いながらまた自分で揉みしだく。 焦らされるだけ焦らされてこっちもおかしくなりそうだが、興奮はどんどん高まった。 「じゃ、見せてあげる」 YOUの手が背中に回りブラジャーをはずす。 そして寝ている俺の顔の前に胸を持ってきた。 「触っちゃだめ、舐めてもだめよ」と言いながら胸の頂で俺の頬を撫でていく。 「あぁ…」と妖しげな吐息を漏らしながら恥首で全身を愛撫してくれた。 気づくといつの間にかショーツも下ろしている。 「YOU、素敵だよ」と言うと、微笑みながら 「もっと気持ちよくしてあげる」と俺の下半身に顔を寄せてきた。 エロティックな目で勃起したものを見ながら撫でている。 時折彼女の息がそこに当たるのがわかる。 「舐めてほしい?」と聞きながら舌を伸ばすがなかなかそこに触れてくれない。 それでも時折身体に触れる恥首の感触と裏筋を撫でる指先が俺の快感を高めてくれた。 「こんなにいっぱい、エッチな涎をたらして…」 と言いながら亀頭の先にあふれる透明の液体をやっと舌先で掬い取ってくれた。 それからは驚くほど長く伸ばした舌を根元から先まで絡める。 「いい…。 すごくいいよ」と俺は呻くことしかできない。 俺の顔を満足そうに見ながらそれを続け、俺の手が彼女のお尻に触れたところで離れた。 「ここも見たいの?」と俺の耳元でささやく。 俺が何度も頷いたのを見て 「見るだけよ。 どんな格好になればいい?どんなことでもしてあげる」と続けた。 「わかった、絶対に触らないからベッドに仰向けで横になって」とお願いした。 YOUは素直に横になる。 彼女の手は胸と股間を隠していた。 「胸を見せて」というと恥ずかしそうに目をそむけながら手をどける。 「素敵だよ、寝ても形が崩れないんだね」 そういう俺のほうを見て「恥ずかしいわ」と呟いた。 「ずっと俺の顔を見ててくれ」というと黙って頷く。 「ここが職場じゃなかったらどうしてほしい?」と聞くと 「指で軽く触ってほしい」 「それだけ?」 「口でもしてほしいわ」 「口でどうするの?」 「な…舐めて…ほしい」 「どんな風に?自分の指でやってみて」 と言うと細い指先を恥首に当てやさしくこすり始めた。 「あ…あっあっ…」と声が漏れ身体をくねらせていく。 そして股間を隠していた指先が奥のほうに動いていくのが見えた。 「下の方はどうしてほしいの?」と聞くと 「指で…指で…あぁぁ…」と言いながら腰を妖しく動かしていく。 「指だけ?」というと「い…いじわる。 お口も…」と言いながら目を閉じた。 「こっちを見ているんだよ。 どこを触ってほしいのか見せて」と俺が言うと YOUは目を開き、手をどかせて少しひざを立てて大きく股間を開いた。 「恥ずかしいの…。 でもチコさんが見て喜んでくれるなら…」と指を使いさらに奥まで開いていく。 俺はそこを見ながら「うれしいよ。 すごく綺麗だ。 俺もここを舐めたいよ」と言った。 YOUの指が亀裂の上部の豆粒状のものに触れ「ここをこうしてほしい」といじり始める。 さらに大きな喘ぎ声をあげると、その下に見える穴からトロトロの液がこぼれた。 「こっちにきて」というYOUの顔の横に膝を立てていると YOUは硬く上を向いたものを口に含み、 「入れてほしいの、これを」と言いながら熱い液の溢れる中心に指を差し込んだ。 身体を震わせ淫らに乱れていくYOUを見ながら、俺も頂点まで駆け上がる。 「YOU、いきそうだ」と言うと更に激しく首を振った。 俺の射精感はすぐに頂点を向かえ、「ああ!」という声とともにYOUの口の中で弾けた。 その瞬間、YOUも頂点に昇ったらしく身体を何度もビクビクと痙攣させている。 (こんなに興奮したのは初めてだ)と思えるほどの快感を味わい 思わずいつまでも精を吸い取るYOUの髪に触れてしまった。 「YOU、ありがとう」と言うとやっとYOUも口を離し 「チコさんの嬉しそうな顔、私まで幸せな気分にさせてくれる」と抱きついてくれた。 「今度はYOUを気持ちよくさせる番だけど…」と耳元で囁くと 「嬉しいわ。 でもそれは、明日の晩まで待ってね。 明日、仕事が終わったら 私の部屋にご招待します。 そこであなたの好きなだけ、私を可愛がって」 といい優しくキスをしてくれた。 浜辺に出て散歩していると、遠くの方で手を振っている人がいる。 よく見ると出勤前のYOUだった。 俺はYOUのところまで走った。 「チコさん、ずいぶん早起きなのね」と息を切らす俺にYOUがハンカチをくれる。 俺は汗を拭きながら「YOUこそ。 いつも出勤前にここに来るのかい?」と聞くと 「ええ、仕事に入る前の30分はここでお散歩しているの」と答えた。 それから俺たちはのんびりと散歩をしながら他愛ない会話を交わしていたが 「チコさんとこうしてお話しているだけで、嫌な事、全部忘れられるわ」 とYOUが言ってくれた。 「俺はYOUといると元気になれる感じだ。 なんだか頑張ろうと思えるよ」 「うふふ、ここで何を頑張るのよ?」 「う~ん、内緒なんだけど、憧れのYOUと結ばれるぞ!って張り切ってるわけさ、あはは」 などと話しながら笑いあった。 「さて、そろそろホテルのお仕事始めなくちゃ。 チコさん、今朝も朝食食べるでしょ?」 とYOUが聞いてくる。 「そうだな。 今朝は和風の朝食でももらおうか」と言うと 「はい、ありがとうございます。 すぐに支度してお部屋にお持ちしますね、ふふふ」 と笑いながらホテルの方へと走っていった。 俺もホテルに戻りシャワーを浴びてYOUが来るのを待っていた。 ドアがノックされYOUが朝食を運んできた。 ワゴンの上には朝食の他にクルマのキーが乗っている。 「これ、私のクルマのキーなの。 今夜は7時に終わるからクルマの中で待っていて。 中庭の駐車場の一番奥に止まっている赤いBMWだから、すぐ分かると思うわ。 どこかに出かけるならレンタカーなんてやめて、このクルマを使ってね」 とキーを渡してくれた。 「今日は出かけないと思うけど…ありがとう。 その時間にはクルマにいるよ」 「お食事はしちゃダメよ。 ちゃんとお部屋に用意してあるから」 「YOUの手料理か。 そりゃ、楽しみが増えた」と喜ぶと 「味の保証は出来ないけど…、チコさんの好きそうなものを揃えたつもりよ」 とYOUはにこやかな顔で朝食を並べ終えた。 その日、俺はホテルの中のプールサイドでのんびりしていた。 リクライニングチェアを倒しウトウトしていると、 「あら、こんなところで暇つぶし?うらやましいなぁ」とYOUの声が聞こえた。 「暇つぶしってワケじゃないけど」というと 「あら、ナイスバディの美女を物色中だったかしら?」と更に皮肉を言ってくる。 「俺には一目惚れした南国のプリンセスがいるからね。 夢にでも出てこないかと期待しながら横になってただけさ」 「うふふ。 で、夢にでてきたの?」 「いや、空振りだったよ」 「あら、残念ね。 私は昨夜も見ちゃったわよ」と答えてきた。 「いいなぁ、どんな夢さ?」と聞くと「内緒!」と言いながら走って行ってしまった。 あたりが暗くなってきたから、俺はすいた腹をなだめながらYOUのクルマの中で待っていた。 朝見た服と違うちょっと大人っぽいワンピースを着たYOUが現れたのは 約束した時間の10分前だった。 「お待たせしました」と言って助手席に乗り込むと 「ちょっとだけお買い物をしていきたいの」とナビを操作し始める。 「このナビに従っていけばいいのかな?」と言ってクルマを出すと 「うふふ、このクルマ、私以外の人が運転したの初めてなのよ」と俺の方を見ていた。 到着したのは昨日行ったモールだった。 「お料理の好みはなんとなく分かったけど、お酒の事は聞いてなかったでしょ。 今夜、乾杯するお酒を一緒に買いたかったの」 と俺の腕に腕を絡めてリカーショップに向かっていく。 店の中であれこれ見て選んだのはベルギービール3種類とワイン3本、焼酎2本。 それに高級なモルトウイスキーにバーボンを1本ずつ。 「こんなに飲めないよ」と俺が言っても 「全部飲み終わるまで帰らせないんだから」と嬉しそうに買っていく。 やっとの思いでクルマにお酒を積み込むと、YOUは 「ここから20分で私のお部屋に到着よ。 さ、いきましょ」 とまた助手席に座り、運転する俺を楽しそうに誘導した。 YOUの住む4階建てのマンションはやはり海が見える高台にあった。 ガレージには外車が並んでいる。 そして最上階にあるYOUの部屋に入ると更に驚いた。 だだっ広いワンルームにその倍はありそうなバルコニーがついている。 部屋の中にはシックで高級そうな欧州家具が置かれ、まるでセレブの別荘風という感じだ。 「すごい部屋じゃないか」というと 「ちょっとワケありでここに住んでいるの」とだけ答えた。 あまり詳しく話したくなさそうなので、それ以上聞かずに 「さて、腹ペコのチコはどんな夕食にお目にかかれるのかな?」と言うとYOUは 「あ、ごめんなさい。 すぐに支度するわ。 そこでテレビでも見ていてね」 とキッチンに走っていった。 大きなテーブルの上には、俺の好物の魚や野菜がずらりと並び 美味しそうなスープまで置かれている。 「すごいじゃないか」と言うと 「チコさんに喜んでもらえるなら、これくらいはね」とウインクを返す。 「じゃ、まずはベルギービールで」と俺が言うと YOUはもっともフルーティーなテーストのビールを選んだ。 「じゃ、二人の夜に乾杯!」と俺が発声すると、YOUは首を振り 「夜も昼ももっともっとずっと先までよ、乾杯!」とグラスを合わせた。 それから2時間、俺たちは笑いながらゆっくりと食事をし酒を飲んだ。 こんな楽しい食事をしたことはない。 お互いに何度もそう話し、食事をする姿を見て素敵な時間を過ごした。 (気の合う恋人と一緒にいるって本当に幸せな事だ) と実感する反面、別れの時間が迫っている事が頭をよぎり心が重くなる。 YOUがいつまでも一緒にいたいと強くアピールしてくるのがよくわかる。 俺もできる事ならそうしたいという気持ちになってくるが、 どうしていいのか分からない今は、YOUと一緒にいる時間を どれだけ楽しい時間をすごせるかだけを考えようと思った。 ベルギービール1本、赤ワイン1本で夕食を楽しみ その後はソファーでモルトウイスキーを飲みながらいろいろな事を話した。 YOUの両親は沖縄本島にもよく来るが、普段は石垣島で生活をしているということだ。 「生まれ故郷でも一人暮らしは寂しいわ。 でもやっぱり沖縄を離れられないかな。 だって、一人っ子だから両親の事もあるし、仕事も生活も本土には馴染めないもの」という。 「それじゃ、一緒に暮らすなら、俺がここに移るしかないな」と答えると 「チコさんが本気でそう思ってくれるなら嬉しいけど…」と目を伏せた。 今、この瞬間は二人の願いを実現する策などあろうはずはない。 であれば、これ以上期待を持たせても落胆させても心の距離を広げてしまうだけだろう。 「いつか一緒にここで一緒に暮らすよ。 約束する。 今はそれだけしか言えないけど」 「私はチコさんがそう言ってくれるだけで十分、幸せよ。 でも現実は厳しいわよね… でもチコさんが私との生活を望むなら、私も早くそうなれるように頑張る」 どうしようもない気持ちをぶつけ合うように俺たちはきつく抱き合いキスをした。 それから二人は裸になり何もかも忘れ、お互いの身体に優しくそして激しく触れあい 身体をつなぎ合わせ、幾度となく昇華した。 俺はYOUの素晴らしい肉体を目に焼きつけ、喜びに翻弄され口からこぼれる声を耳に刻む。 「お願い、今夜は何もつけずに私の中で…」と言うYOUの願いに俺の想いも重ね、 最後には俺の身体から湧き出る官能の精を、YOUの体内に残らず注ぎ込んだ。 ドクドクと脈打つ俺のものをYOUは熱く震える蜜口で受け止めながら、 「嬉しい…私、幸せよ。 愛してるわ、チコさん」と俺の身体に抱きついてくる。 「今夜の事は忘れないし絶対にお前を離さない。 ずっとずっと俺の心はYOUと一緒にいる」 俺はそういいながら抱きしめる。 そして身体をつなげたまま、いつの間にか俺たちは眠りについた。 4日目の朝。 明日にはYOUの元を離れないといけないかと思うと 胸がキリキリと締め付けられるような感じになる。 (本当に仕事も変えてこっちに移ってYOUと暮らしたい) 俺はホテルに向かうクルマの助手席で真剣に思ったが 今の沖縄は観光客が減っていて不景気。 ここでどうやって生活すればいいのかと考えると現実味を帯びてこない。 そんな俺を横目で見るYOUは「チコさん、素敵な夜をありがとう」などと 鼻歌交じりにご機嫌で運転している。 ホテルが見えてきて 「一緒にいるのをホテルの人に見られたらまずいんじゃないか?」と俺が忠告しても、 「大丈夫よ、私、気にしないわ」と意に介せず駐車場にクルマを入れた。 ちょうどおもてに出ていた支配人にも普段通りの挨拶をし 「それじゃ、私、仕事に入ります。 お部屋でルームサービスをお待ちくださいね」 と手を振りながら通用口に消えていった。 支配人は俺の事をにこやかな顔で見ている。 俺の方がバツが悪くなり、ホテルとは反対の砂浜の方に歩き出した。 YOUの日課の代りをするように俺は砂浜の上を散歩した。 そしてホテルの部屋に戻ると、ドアの前にYOUが着いたところだった。 目の前にあるワゴンには朝食が乗っている。 「昨日、頼むの忘れてたでしょ。 ちゃんと用意したから食べてくださいね」 と部屋に入り美味しそうな料理を並べてくれた。 「ありがとう、YOUが用意してくれたんなら、残さず食べられそうだ」 「うふふ、これが毎日だと太っちゃうかしら」 「毎日YOUがいるなら、どんな風になっても気にしないけど」 「本当?チコさん、私と一緒にずっとここにいてくれるの?」 「きちんと生活が出来るなら、ぜひそうしたいよ。 でも、ここでどうやって生計を立てたらいいか見当もつかない」 「そう…。 チコさんが本気なら…」 「何か、俺のやっていけそうな仕事、ある?」 「ん~。 ちょっと当たってみてもいい?」 「もちろんさ。 でももし、それがダメならやっぱりYOUをさらっていく」 「うふふ、チコさんならそれもいいかな。 でも今は何も考えないでお食事してくださいね」 とコーヒーを入れてくれた。 その日YOUは、部屋の片付けと掃除をしていったあと、何度も部屋にきた。 その度にキスをし、お茶を入れ部屋を片付けていく。 でも目的は別、俺の事を色々聞きたいようだ。 今までの経歴や仕事の事、趣味や女性遍歴まで。 きっと仕事を探す上で必要なのだろうと思って俺は正直に話した。 そして、夕暮れ時、「今夜、空いているでしょ?」とYOUから連絡が入った。 もちろんだと答えると、今夜は知り合いのパーティーがあるから 付き合ってほしいと言う。 YOUも仕事を早く終え、そこにいくそうだ。 「でも…」と着ていくものもないと言いかけたところで 「全部用意してあるから何も心配しないで」とYOUの方から言ってくれた。 (何だか分からないが、今夜はYOUの言う通りにしよう) と心に決め、YOUが迎えに来るのを待っていた。 夜7時、YOUがドレスを着て俺の部屋をノックしてきた。 俺が贈ったアクセサリーも身につけてくれている。 「さ、早くこれに着替えて」とYOUが手渡したのはタキシードだった。 「おいおい、いったいどんなパーティーなんだよ」と聞くと 「ここのホテルのオーナー主催のパーティーよ」とちょっとだけ教えてくれた。 確かこのホテルのオーナーは、海外にもホテルを持つ資産家。 沖縄屈指の金持ちである事は間違いない。 であれば、この土地の大物が集まるパーティーということになる。 俺の望みを叶えるためにYOUが誘ってくれたのなら、 そこで自らチャンスを活かし望みをつかめということなのだろう。 俺はYOUの作ってくれた機会を無駄にしないため、 出来る限りのことをしようと気合を入れて部屋を出た。 フロントに部屋のキーを預けると、支配人まで出てきて「いってらっしゃいませ」と頭を下げた。 外に出ると玄関の前にはメルセデスのリムジンが止まっている。 「このクルマ、パーティー会場への直行便なの」 とウインクするYOUに調子を合わせ、後部席のドアを開けYOUをエスコートする。 そして俺が乗り込むとリムジンは音もなくゆっくり走り出した。 「ど…どういうことなんだよ」とYOUに聞くとクスクスと笑っている。 「今日は私のお隣にいてくれるだけいいわ。 私があなたを紹介した人だけ挨拶を返してね」 妙な雲行きだが、俺はただこの状況に飲まれず堂々としていようとだけ考えた。 ホテルから20分ほどでパーティー会場に着いた。 そこはオーナーの屋敷、といってもまるで宮殿のような豪邸だ。 既にパーティーは始まっているらしく、玄関の前に止まったリムジンを見つけ、 多くの人が俺たちを迎えてくれた。 YOUはこういった場所には慣れているらしい。 次々と恰幅のいい男たちに挨拶をし、俺の事を「私のいい人」と隠すことなく紹介していった。 そして最後に主催者であるホテルのオーナー夫妻にも紹介してくれた。 それからしばらく俺はオーナー夫妻と談笑した。 YOUは彼らに俺の仕事の事や趣味を話し、 オーナーも自分の若い頃の仕事ぶりや奥さんと恋に落ちた時の話をしてくれた。 パーティーが終わる頃、オーナー夫妻がラストダンスを二人で踊る。 それが毎回恒例になっているのだとYOUが話してくれた。 「ね、私たちも踊りましょうよ」と言ってYOUが俺の手を引く。 「ダメだよ」と言いかけたがYOUは強引に俺に抱きつき踊りはじめた。 オーナー夫妻は踊りながらそれを満足そうに見ている。 そして周りにいる人たちもニコニコしながら俺たちがワルツを踊る姿を見ていた。 まるで映画の中のワンシーンのような出来事にいちいち面食らうが 俺がまごまごしてはYOUに恥をかかせると思い、冷静に切り抜けた。 初めてのことばかりでぎこちなかったとは思うが オーナーはどうやらそんな俺の姿勢が気に入ったらしい。 「なかなか肝の据わった男だ。 君のお陰で楽しいパーティーになったよ」 と握手を求められた。 俺とYOUはそんなオーナーにお礼をいい、深々と頭を下げて豪邸を後にした。 俺たちを乗せたリムジンはYOUの部屋には向かわずホテルを目指しているようだ。 「ホテルに帰るんだね。 このあとはYOUと一緒にいられないのかな?」 俺が不安になってそう聞くと、 「もちろんずっと一緒にいるわよ、最上階のスイートで」 「えっ、スイート?どうしたんだよ、その部屋。 俺は予約してないぞ…」 「いいのよ、今夜は最上階のワンフロアを私が借り切ったんだから」 と涼しい顔で言ってのける。 「えっ?えっ?ワ…ワンフロアって?」 (YOUって一体、何者なんだ?)と思い始めたころホテルに到着した。 「お帰りなさいませ」 支配人はじめ、主だった従業員がおもてに出ていた。 全員、VIPを迎えるように俺たちに最敬礼している。 それを見ながらYOUは堂々とホテルに入っていった。 最上階に着くとズースレゼルヴなどのデザートワイン類、 それに様々なチーズやフルーツがテーブルの上に並べられている。 何が何だか分からず、とりあえずソファーに座った俺に YOUは少し琥珀かかった白ワインのグラスを渡してくれた。 「今日のパーティーといいこの部屋といい…どういうことなんだい?」 とYOUに質問すると、一瞬間をおいて 「まだ分からないかな?」と言いながら俺の隣に座ってきた。 でもよく考えれば、あの時のオーナーがYOUを見る目、 それにあそこに参加していた人や従業員のYOUに対する態度など 不思議だと思っていたことにも頷ける。 「じゃ、俺はYOUのご両親のところに仕事の面接に行ったようなものか?」 「ある意味、そういうことになるかもしれないけど、 単に娘がボーイフレンドを紹介したようなものだわね」 「ご両親だけじゃなく、街のお歴々やここの従業員にもまとめて…だよね」 「いけなかったかしら?」 「いや、悪いわけない。 でも、できる事なら…フィアンセとかって 紹介できるようになってからの方が収まりはよかったかもと思ってね」 「うふふ、皆さん、そう思ってるかもよ?」 「ご両親も?」 「だって、私がボーイフレンドを紹介するなんて初めてのことですもの」 「だけどバツイチ男の俺なんかじゃ、反対されるに決まってる」 「そんな事ないわ。 両親はあなたのことすごく気に入ってくれたようだし、 ビジネス的にも世間知らずの私にピッタリのパートナーだって言っていたわ」 「それは光栄だな。 でも、まだ…プロポーズもしていない」 「あら、ずっと私と一緒に暮らしたいって。 あれ、プロポーズじゃなかったの?」 「あっ!そうだよな。 儀式や形式的なことがなくても、お互いの気持ちは成立してたか」 「そうよ。 でもきちんとしたプロポーズは、聞きたいなぁ」 「じゃ、まずは指輪を用意して…それからもう一度このタキシードを着て…」 「あはは、冗談よ。 私があなたのお嫁さんに相応しいかどうか… しっかり品定めして、それでもし合格ならちゃんとプロポーズしてね。 形式的なことはそれからでいい。 とにかく、私と一緒に暮らして」 YOUはそういって俺の胸に飛び込んできた。 「今日は俺たちの大切な記念日だね」 キスが終わったところで俺はYOUにそう告げた。 「ええ…本当に忘れられない日。 でももっと忘れられない思い出、ここで作りたいわ」 「ついでに子供も…?」 「それも悪くないけど、私はもう少し二人きりの時間がほしいかな」 「そうだね、俺も賛成だ。 じゃ、さっそく」 「うふふ、さっそく?何するの?」 「こうする」 俺はYOUを抱き上げベッドまで運んで行った。 部屋の明かりを消し、タキシードを脱いで下着だけになるとYOUを見つめた。 「波の音が聞きたいわ」とYOUの呟きが聞こえる。 海側のガラス戸をすべて開け放つと俺は風に揺れるYOUのドレスを優しく脱がせた。 そしてYOUを裸にするとバルコニーに誘った。 「私…昨日、その砂浜でチコさんに抱かれた夢を見たわ」 YOUがワインに口をつけ月を見ながらいう。 「浜に下りようか?」俺がそういうと、一瞬考えYOUは 「いいわね。 砂浜の上で抱かれるなんて最高にロマンチック」と抱きついてきた。 裸のYOUにガウンを着せ非道階段を使って浜に下りると、 ホテルの部屋からは死角になる場所を選び砂浜を逃げるように走っていく。 人気がないことを確認し浜辺に寝転ぶと、 空に隙間なく輝く星たちが俺たちの方に降り注いでくるように思えた。 「チコさん…こんなところでなんて恥ずかしいけど…」 YOUが妖しい笑みを見せてガウンの前を開き、裸になって俺の上に跨る。 そして、下着の中から硬くなったものをつかみ出すと ゆっくりと口に含み、お尻を俺の頭の方に持ってきた。 月の光でおぼろげに見える亀裂から、溢れている雫が輝いている。 俺が舌先を伸ばし敏感な突起を刺激すると、 「うぅぅぅ…」と喉の奥でうめき声を漏らしながらも口に含んだものを離さない。 何度も身体を震わせながらもYOUは懸命に声を殺しそれを続けた。 そして一瞬、月が雲に隠れあたりが暗くなったとき 「もう、我慢できないの」 といってYOUは体勢を変え俺のものを蜜口に当てると、そのまま飲み込ませていった。 「あぁぁ、なんて素敵なの!ずっとこうするのが夢だったの」 月明かりが戻ると月光に輝く『南海のプリンセス』の 優雅にそしてエロティックに舞う姿が見えてくる。 「いい!いい!すごいわ!」 波の音に被って聞こえてくる喘ぎ声も俺の官能を揺さぶってくる。 耐え切れなくなり「YOU!」と叫ぶと「いく!」というYOUの声がぶつかり合う。 俺の魂が弾けYOUの身体の中に注がれたとき、 YOUもまるで気を失ったように身体の力が抜け俺の方に倒れこんできた。 それからどれくらい時間が経過したか…。 ずっと俺のものを身体の中に埋め込んだまま動こうとしないYOUに 「俺もこんなの初めてだ。 YOU…本当に綺麗だったよ」 というと、恥ずかしそうに身体を離し 「私も興奮しちゃった。 私って…変態ね。 でも嫌いにならないで」 「当たり前じゃないか。 逆にもっと好きになったし、忘れられない思い出が出来た」 「ええ、私も一生忘れない。 死ぬ間際にもきっと今の時間を思い出すわ」 そう話しながらホテルの部屋へと戻っていった。 到着するとすぐにこれまでの仕事に区切りをつけ、持っていたすべてのものを処分した。 そして親兄弟や知り合いにYOUを紹介する。 みんな驚いていたが、美しくしっかりもののYOUを見て安心したようだ。 俺たちはみんなに祝福され、すぐに沖縄に戻ってきた。 沖縄に戻って3ヶ月、YOUは相変わらずルームサービスをしながら ホテル経営のための修行をしている。 そして俺も、ホテルのフロントで見習いとして働いている。 これからどうなるかは、もちろん分からない。 でも今は、これ以上の幸せはないと感じられる。 お金や裕福な暮らしが幸せなのではない。 同じところを目指し、一緒に歩けていること。 そして何より、お互いを見つめあい励ましあいながら暮らせること。 既に40の大台をクリアしたバツイチ男。 いつもハングリー、と言ったら聞こえはいいが、 情けない事に本当に腹をグーグーと鳴らす貧乏探偵だ。 業界では腕利きの家出娘ハンターと言う事になっている。 すかさず「俺は狙ったターゲットは逃さない…」 とハードボイルドに台詞を決めたいところだが、 実は家出娘なんて、探し当てる前に帰ってきちゃうことのほうが圧倒的に多い。 男と遊んでいて帰りたくなくなった娘が大半。 ごくたまに本当に家出した娘も、とても一人で生きていくことなどできないことにすぐ気づき みんな1日、せいぜい2、3日のプチ家出で終わってしまうからだ。 この仕事は成功報酬が大前提みたいなところがあって、 いくら足を棒にして捜しても、俺が見つける前に帰ってきちゃったら 正規の調査料なんて払ってもらえない。 必要経費として使った実費と雀の涙ほどの調査料を貰っておしまい。 その度にこんな仕事、もうやめようと思うが、 なぜか食いつなげちゃって、ずるずると続けている。 こんな男じゃ女になんかもてやしない。 貧乏に疲れた嫁が逃げてから約5年、 ほとんど女性の柔肌に触れる機会もなく悪戯に月日だけが経っていた。 「おっ!さっそく仕事の依頼か。 しかし電話の向こうから聞こえてきたのは、ヒステリックな女性の声だった。 「チコさん!あんたに頼んだ浮気調査、いつまでかかってるの!」 と依頼者はご立腹のようす。 そう、今俺の抱える仕事は最も苦手な浮気調査の仕事。 電話はその唯一の依頼に対するクレームの電話だった。 「ああ、もう少しお待ち下さい。 敵もなかなか尻尾を出さない…」 と言い訳を始めると、 「何、のん気なこと言ってるの。 主人は昨日も定時に仕事を終えてるのに外泊よ! だいたい、あなたのところ、いつ電話しても通じないってどういうことよ。 もういい!他の探偵に頼むから!」 と一方的に切られてしまった。 「まいったな…こんな最悪の朝だとは」 俺は嘆き、同時に途方にくれた。 デスクの上にあるのは依頼人の旦那の浮気相手の写真。 まるで菊川怜のようなルックスに、藤原紀香のボディ。 それでいて若いのに杉本彩のようなエロティックさ。 日本の女優と言うよりハリウッド女優のようなゴージャスな雰囲気がある。 YOUという峰不二子ばりの女は25歳の元キャバクラ嬢で 依頼人の旦那が借りているマンションをねぐらに優雅な妾生活を楽しんでいる。 (どうせ他に仕事はない。 もう少し調べて報告したら、経費ぐらいは…) そう思った俺は飲みかけのコーヒーを喉に流し込み、愛用のトレンチコートに手を伸ばした。 彼女の住むマンションは白金台の高級住宅地にある。 俺は最近毎日訪れているちょっと洒落たカフェに入り、 お気に入りの窓際の席に腰を下ろすとエスプレッソを注文した。 念のため、変装用のレイヴァンのサングラスをかける。 ここならマンションの入口は目の前に見える。 俺は調査書類を眺めながら張り込みを始めた。 写真で見てもかなりいい女だ。 (男好きするルックスにナイスバディーか。 あの奥さんも手ごわい女を敵に回したな) そんな事を考えながらエスプレッソの到着を待っていると いきなり真っ赤なマニキュアの手が伸びてきて、その写真を取り上げた。 「あなたが私を調べてる調査員だったのね」 写真を取り上げたのはスーツケースを持ったいい女、いや調査対象のYOUだった。 「あっ…いや、そのぉ…」 言い訳する言葉が見つからず口ごもっているうちにYOUは俺の隣の席に座った。 「ねぇ、どうしてくれるのよ!彼、奥さんにばれたから別れるって、今連絡してきたのよ」 「え?俺はまだ何も報告はしてないが」 「うふふ、図星だったようね。 あなた探偵さん?」 どうやら嵌められたようだ。 「そ…そうだけど、俺も今朝、依頼人から解雇されたんだ」 と言ってYOUにこれまでの経過を聞かせてやった。 「なんだか頼りない探偵さんね。 でもこのままじゃ、私行くところがないの。 あなた、責任とってよ」 「せ…責任って…」 彼女は俺に無茶振りしてきた。 「ここじゃ話しにくいから、とにかくあなたの事務所で話しましょ?さあ、早く!」 彼女は俺にスーツケースを押し付けると、腕を引っ張り店の出口にぐいぐい引っ張っていく。 俺は届いたばかりの口もつけていないエスプレッソを恨めしそうに眺めながら店を出た。 事務所に向かう間、YOUは俺の腕に自分の腕を絡ませ豊かな胸を押しつけながら歩いていく。 「まるで旅行中の恋人同士みたいだな」 俺が隣で呟くと 「不本意だけど、逃げられたら困るもの。 私どこにも帰るところないから」 と更に胸を押し付けてくる。 久しぶりの柔らかな女の感触にムクムクと男の欲望が湧き上がるのをぐっと堪え 「なんでだよ。 自分のマンションに戻りゃいいじゃないか」 「だって頭にきたから、彼の自宅にマンションの鍵、送っちゃったもん」 「ずいぶんと素早いご判断だこと」 俺はちょっと嫌味を込めて言ってやると 「だってどうせ時間の問題でしょ?とりあえず手切れ金が入るまで面倒見てね、探偵さん」 彼女は頭もよく行動力もあるみたいだ。 (俺とは大違いだな) そんな事を考えているうちに事務所についた。 ドアの鍵を探しているとYOUは入口横に貼られた俺の探偵事務所の求人ポスターを見つめている。 実はさっきの依頼人に言われるまでもなく、調査で留守がちになるので、 苦しいけれど受付と連絡を行う事務の女性を置こうと募集していた。 どうせアシスタントにするなら自分の好みの女を、と気合を入れてポスターを作ったが 面接に来るのはばあさんや好みとは程遠い女ばかり。 そんな事をしているうちに、すでに半年が経過してしまった。 「事務員募集中?なら、私がやってあげるわ」 「え?」 俺があっけに取られた顔をしていると YOUは張り紙をはがし、俺の手からキーを取り上げると自分でドアを開け中に入った。 「なんだか地味でうさんくさい感じの事務所…」 YOUは入るなり怪訝そうな顔をした。 「いや、探偵事務所なんてどこもこんなもんだろ」 「これじゃ、女性のお客様も入りにくいわね。 私が明るくしてあげるわ」 彼女はバッグをソファーに放り投げ、さっそく掃除を始めた。 「おいおい、まだ雇うとは言ってないけど」 「ああ、気にしなくていいわ。 どうせお給料なんて期待してないから。 でも、私がここに寝泊りするんだから、ちょっときれいにしなくちゃね」 どうやら勝手にここに潜り込むと決めているようだ。 (まあ俺好みのいい女だし、電話番ぐらいできるだろう) 俺はソファーに座ると、 「じゃあ、こっちにきて」とYOUを呼び寄せる。 「はい、所長!」と妙な呼び方をして彼女は俺の前に立った。 もう一度YOUをつま先からゆっくりと舐めるように見上げていく。 (やっぱりぞくぞくするほどいい女だ)と思っていると 「履歴書はなくても調査済みでしょ?3サイズは90の58の85、脱いだらもっと凄いんです」 といつか聞いたCMのような台詞を言ってくるりと1回転して見せた。 「給料は…」 と言いかけると 「そうね、とりあえず50万ももらえたら文句はないけど」 YOUは顔色ひとつ変えず驚くべき金額を提示した。 (期待してないっていってたのに…期待したらいくらだよ) 俺は呆れながら「そりゃ、無理だよ。。。 俺がほしいくらいだ」と苦い顔をした。 「うふふ、分かってるわよ。 それだけ貰えたら夜のサービスまでしてあげようと思ったけど、 まぁ、私もいろいろあるんで、その半分でいいわ」 「いや…あの…仕事があればそれぐらい払いたいけど」 「それもだめ?仕方ないなぁ。 じゃあその半分で、この部屋は使い放題。 あとは仕事が増えたら、私にも回してね。 そしたらお口ぐらいはサービスしてもいいわよ」 なんとまぁ、わきまえたと言うか勘のいいというか… 俺の腹積もりを見透かされた気がした。 「わかった、それじゃその条件で」というと、 「ありがとうございます!私のことはYOUって呼んで。 もうひとつ言っておくけど、私、あげまんだから、これから景気よくなるかも」 と早速俺のひざにそのあげまんをこすり付けるようにお尻を乗せてきた。 「そりゃありがたいね。 YOUのあげまんでこの事務所初のバブルがくることを祈ってるよ。 じゃ、俺のこともチコでいいから」 挨拶代わりにキスをしようと顔を近づけると、人差し指で俺の唇を押さえ 「ご褒美は仕事の後よ、チコ所長」 と言って微笑みながら、また立ち上がり掃除の続きを始めた。 その時、電話の着信音が鳴った。 俺が出ようとするとすかさずYOUが手を出し 「はい、チコ探偵事務所でございます」 と軽やかな声を上げた。 そして「はい、所長でございますね。 少々お待ちください」 と言って電話を保留にする。 「彼の奥さん。 依頼人からよ」と言って俺にキッとした目で受話器を渡した。 「今朝はごめんなさい。 やっぱり続けて」と依頼人は詫びを入れてきた。 もう解決したでしょう、と言ってやりたかったが、俺は 「分かりました。 でも粗方調査も終わりましたので、後ほど報告書をお届けします」と答えてやった。 調査対象はここにいる。 それに今日のうちに報告してしまえばすべて丸く収まるはず。 神様がくれたチャンスと思い、俺は電話を切った。 「YOU、ちょっと」俺が呼ぶと 「調査報告書、作ればいいんでしょ。 もう、腹が立つ初仕事だけどいいわ。 その代わり、報酬もらったらいろいろおねだりするわよ。 いい?」 と言って自分で報告書を書き始めた。 何も教えていないのに手馴れたもんだ。 YOUは彼との出会いから、さっきの別れまでの一部始終を まるで俺が調べ上げたように書いていった。 「やるなぁ、これで完璧。 成功報酬の30万は現金でもらえるはずだ」 「うふふ、30万かぁ。 足りるかな? ねえ、ついでに別れさせたとかいって、追加報酬を交渉してみたら? ベッドにカーテン、それに食器にほしい服もあるもの…」 こいつ、本当に侮れない。 俺が言ってやろうと思っていることをすでに分かっているようだ。 「ああ、やってみるよ」 俺はそういって事務所を出て行った。 依頼人の家に着くと奥さんが愛犬を胸に抱きながら俺を招き入れる。 俺より少し若く結構美人ではあるけれど、さすがにYOUには及ばない。 「今朝は本当にごめんなさい。 つい頭に血が上って…」 ともう一度詫びを入れ、俺をリビングのソファーに通してくれた。 「これ、報告書です」 と言ってファイルを広げて見せる。 もちろんYOUのマンションの前で撮影した旦那の写真も添えている。 「この女なのね!」 奥さんは唇をかみながら報告書を読んだ。 「奥さん、でももう心配いりません。 彼女はもうこのマンションを出て行きました。 明日にはマンションの鍵がここに送られてくるはずです」 と言ってやる。 「え?そうなの?チコさんが別れるように言ってくださったの?」 「あっ…まあ…」 「うれしい!ありがとうございます。 本当にチコさんって優秀な探偵さんね。 私、初めてお会いしたときから、そう思ってましたわ」 今朝とは真逆の発言だ。 「いえ、そんな…」 「こういう頼りがいのある男の人、女はついつい惚れてしまうものよ」 と妖しい目を俺に向けてきた。 こういう展開は嫌いではない。 相手も俺好みの女ではある。 でも俺は何となく後ろめたさが先にたち、積極的に行動することはできなかった。 「ありがとうございます。 これで仕事は完了したということでよろしいですか?」 と事務的に言うと、 「ええ。 でも別れさせてくれたんだから…別にボーナスも要るんじゃないの?」 俺が言い出す前に依頼人のほうから申し出てくれた。 「それは…ありがとうございます」 依頼人は俺の目の前に真新しい帯封のついた100万円を置いた。 「これでよろしい?」 「こ…こんなに…」 俺が目を丸くしながら札束に手を伸ばすと、依頼人は 「いいわよ、最後までちゃんとお仕事を終えてくれたらね」 と言いながら俺にウインクしてきた。 「さ…最後までって…」 「わかってるでしょ?私も主人に仕返ししたいもの。 うふふ」 そういって俺の手をとり隣にあるベッドルームへと誘い込む。 (これがYOUのあげまん効果だとしたら、恐ろしいほどだな) 俺はそう考えながら、最後の仕上げとなる仕事にとりかかった。 俺はふらつく腰を悟られまいとしながら事務所のドアを開けた。 「おかえりなさい」と明るい声がする。 俺はてっきり部屋を間違えたと思い、外に出て表札を確かめた。 チコ探偵事務所。 間違いない、俺の事務所だ。 もう一度中に入るとYOUがニコニコ笑っていた。 「どう?見違えたでしょ?」 確かに驚くほど綺麗になっている。 それに花まで飾ってあり、くすんだカーテンが真新しいものに替わっていた。 「ただいま」とコートをハンガーにかけると、 「ん?」と言ってYOUが俺の近くに寄ってきて身体の匂いをかぎ始める。 「なんだよ」と自分のデスクのほうに逃げていくと 「ふ~ん」とYOUは俺を睨みつけている。 そして「この匂い、やっぱり彼の奥さんの匂いだったのね」 というドキッとする言葉を投げつけてきた。 俺は目を合わせないようにして、デスクの上に100万円の束を放り投げた。 「お!やるわね、さすが、所長さん。 これだけ持って帰ってきたんなら、許して、あ・げ・る」 YOUは機嫌を直し俺の頬にキスすると、そそくさと会社の金庫に札束を入れた。 「明日銀行に入れてくるから、カード置いていってよ。 それと暗証番号もお願いね。 あと…今日私が立て替えた分、ここから頂くわよ。 領収書はもらっといたから」 どうやらこの事務所の金庫番までやるつもりでいる。 「それは俺が…」と言いかけると 「私を信用してないの?大丈夫よ。 どうせ預金なんてないんでしょ? それに明日は家出人探しが2件も入ってるんだから」 と俺の財布からカードを抜き取った。 「家出人探し?」 「ええ、新規の依頼が入ったの。 朝10時と午後1時に依頼人が来るからよろしくね。 ベッドやその他のものはその後買いに行くから心配しなくていいわよ」 (買い物?そのほうが心配だ)と思いながらも 「さすが、あげまん。 今日はいい仕事も出来たし、 寿司でも取ってあげまんアシスタントの歓迎会でもするか」 と答えると、まるで子供のようにはしゃぐYOUの歓声が事務所に響いた。 事務所のカーテンが開けられて、窓が開いている。 俺は朝陽がまぶしくて目が覚めたようだ。 ぼんやりとした頭で昨日の事を思い出してみる。 (そうだ…依頼人の奥さんと) 依頼人はベッドルームに俺を連れて行くとすぐに服を脱ぎ捨て 俺の着ているものをまるでむしり取るように脱がせた。 腰を抱きずっと俺の顔を見ながらフェラチオを続ける奥さんの髪を、 俺は優しく撫でてやったのを思い出す。 愛しそうに、本当に愛しそうに舌を絡めるエロい奥さんの顔を見ていると 俺のものは硬く大きくなっていった。 俺も十分時間をかけて口と指を使い彼女に愛撫を与えると、 俺の背中を掻きむしり卑猥な言葉を口にして大きな声を上げる。 絶頂に駆け上がる彼女の願いを叶え、ずぶりと貫くと 「久しぶり…本当に久しぶりなの、チコさん!」と涙を流しながら喜んでいた。 震えながら快感に酔う彼女を見て(俺だって久しぶりだけど…)と思う俺。 でも俺はそこまで迫る射精感を、別の女を思って制御した。 YOU…そう、YOUの顔を思い出す。 俺は最後まで自分をコントロールし続け、 結局一滴も漏らさず報酬をもらって帰ってきた。 「うふふ、朝からなかなか元気じゃない」 YOUの声が耳に入ると頭の中がクリアになってくる。 身体を起こすと、どうやら俺は下着一枚でソファーに眠っていたようだ。 YOUは俺の横に立ち身体を覆う毛布をまくり上げると 下半身を覗きこんでニヤニヤしている。 (昨日こいつの入社祝いをここでやって…後どうしたんだっけ?) 思い出そうとしても思い浮かんでくるものがない。 覚えているのはやけに酔って大笑いしていたYOUの顔だけ。 「ね、依頼人、来ちゃうわよ。 朝食の準備しとくからシャワー浴びてきたら? それとも来るまでお口でサービスしてほしい?」 時間を見たらもう9時を過ぎている。 お口で…と言いかけたが、このなりで依頼人に会うわけにはいかない。 唯一、俺の仕事のアイデンティティといえるダンディズムが崩れると考え、 断腸の思いで快楽の誘惑を封じ込めた。 「おはよう。 仕事優先にしよう。 残念だがYOUの初めての口は夜までお預けということで…」 と言いかけたところでYOUが 「え?初めてって…まさか昨日の事覚えてないの?ひどいわ、ひどいわ! 私であんなに燃え上がってくれたのに、何にも覚えてないなんて!」 と俺の胸に顔を埋め泣き崩れた。 「えっ?えっ?あの…そういうつもりじゃ…ごめんよ」 俺はおろおろしながらYOUの髪を撫でてやると、 むっくりと顔を上げ「うそよ、えへへ」とあかんべをして見せた。 「さすがだわ。 着替えは私が出しとくから」 と妙な持ち上げ方をして俺をシャワーに向かわせた。 この女に俺は振り回されてばかり。 でもそれが、なぜだか心地いいと感じてしまう。 俺はシャワーを浴び、髭をそりながら (惚れちゃいそうよ、ダーリン)と微笑むYOUを思い返して苦笑いした。 「ここにバスタオルと下着、置いておくわ」という声が脱衣所から聞こえてくる。 「ああ、ありがとう」と声をかけると、 「背中流してあげたいけど今朝食の支度してるの。 裸エプロンで勘弁してね」とドキッとした発言。 「そっちの方がいいかも…」という俺の呟きを聞き逃さず 「きゃ~!チコさんのエッチ~~!」と叫びながら出て行った。 身体を拭いて下着を見ると、見慣れないおニューの濃紺の下着だ。 (これ、YOUの趣味なのか?)と思いながら、まるで女性もののように小さな下着を眺める。 履いてみるとサイドにグレーの太いストライプが入っていて そこには『YOU命』とマジックで書き込んであった。 (こんないたずらしやがって)と思いながらも、どこか嬉しい気持ちになるから不思議だ。 気がつくとバスルームの入口に白いドレスシャツ。 それを着るとすぐ向こうに、ど派手な赤い靴下。 次にダークな細身のズボンに細いベルトが落ちている。 全部、真新しいものだ。 (まるでゴキブリホイホイにつられるゴキブリだな) と思いながら、それぞれ身につけていくと目の前のダイニングテーブルの上に 朝食とは思えないほどのご馳走が並べられていた。 キッチンからコーヒーを持ってYOUが現れる。 (え?まさか…ほんとに?) 歩み寄るYOUの身体はエプロンしかつけていないように見える。 「あ、座っちゃだめよ。 今ジャケットを決めるから」 YOUはコーヒーを並べると椅子にかけてあった2着のジャケットを交互に見比べ 「こっちね」と言って俺に渡した。 「欲しい服があるって…まさか」 「そうよ、あなたの服。 私のはいくらでもあるもの。 気に入った?」 と可愛い笑顔を俺に向けてくる。 「よくサイズが分かったな。 全部ピッタリじゃないか」 「ええ、置いてある服を持っていって同じサイズを選んだだけよ。 靴もあるから後で履いてみてね」 「ありがとう。 YOU、君のセンスといい気遣いといい最高だよ」 と下心いっぱいで抱きしめようと駆け寄る。 彼女はそれを寸前でかわすようにくるりと後ろを向くと 「早く食べないとお客さん、来ちゃうわよ」と言ってキッチンに向かった。 後姿は、ちゃんとミニスカートとキャミソールを着ている。 (やっぱりな…裸エプロンは男のロマンっていうもんな…)と舌打ちすると 「うふふ、残念でした。 チコさんのエッチ~~!」 と、また俺の心を見透かし、あかんべをして消えていった。 俺は急いで食事をとった。 美味しい朝食をたらふく食べてコーヒーを飲んでいるところに 「ごめんください」という女性の声が響いてきた。 続いて「いらっしゃいませ、神部様。 こちらで少々お待ち下さい」というYOUの声。 俺はYOUの決めたジャケットを羽織ると、鏡の前で髪の乱れを直した。 「所長、お客様がいらっしゃいました」とドアから入ってくると ジャケットのエリを直し、耳元で「お金持ちみたいだから、頑張って」と囁いた。 俺はミニスカートのスーツに着替えたYOUに黙って頷き、応接間に入っていく。 俺は名刺を出し「こういうものです。 チコとお呼びください」といつものように挨拶する。 「人探しを依頼されるということですが、どうされました?」と聞くと 依頼人の神部夫人は「女子高生の娘が家を出て行って…帰ってこないんです」と 憔悴しきった顔で話し始めた。 どうやら彼氏ができた事を父親が気づき、厳しく問い詰めたらしい。 娘はその事に腹を立て、家を出て行ってしまったという。 「そういう事、多いんですよ。 でも生活に困って2~3日で帰ってくるのが一般的です」 と俺は専門家ぶって安心させようとした。 「いえ、うちの娘はカードも持っていますし、現金も500万ぐらいは持っているはずだから」 と更に心配顔を向けてきた。 (女子高生に500万?それにカードってどれだけ金持ちなんだよ)と思ったが、 「そうですか。 でも大丈夫、私が見つけて家にお返ししますから」と言ってやった。 「よろしくお願いします」といい、「とりあえず手付けはこれでよろしいですか?」 と50万の札束を俺の前に置いた。 「娘が家に戻ったら、残りはお支払いしますから」 俺は目がくらくらした。 (家に戻したらいくらくれるんだ?)と思っていると、 ドアが開きYOUがお茶を持って入ってくる。 「あ、今、手付金の領収書をお持ちしますわね。 成功報酬はこの他に100万。 必要経費は手付金の中でおさめますが、思わぬ遠方に出向かないといけない場合など 別途実費を頂戴する事もございます。 よろしいでしょうか?」 とYOUが俺の期待を大きく上回る調査金額を提示してくれた。 「娘の事ならそれぐらいでしたら」と神部婦人は快諾した。 (やった!)と小躍りしそうな俺の顔を見て 「ただし、条件がありますの。 3日後に卒業式がありまして、 それに間に合わせて欲しいんです」と過酷な期限をもうけてきた。 俺が難しい顔をし始めると、すかさずYOUが 「かしこまりました。 明後日までに何とか見つけ出し、説得いたしますわ」 と条件をのみ引き受けてしまった。 神部婦人が置いていったのは沙織という娘の写真と趣味などが書かれたメモ。 それに彼氏と思われる男の風体だけだ。 「どうするんだよ、そんなすぐに見つかるわけないじゃないか」 とYOUに言うと、「私のダーリンに不可能はないわ」とウインクを返してくる。 「とにかく大きな案件だ、早速取り掛からなくちゃ。 午後の方は延期の連絡を入れてくれ」 というと「ううん、そっちも困っていらっしゃるみたいだから一緒にやっつけましょ?」 とのん気なことを言っている。 「ん~、じゃ、YOUが内容を聞いておいてくれ。 俺は沙織の交友関係を当ってくるから」 とコートを取りに行く。 そこにはいつものトレンチコートではない見慣れぬ革のコートがかかっていた。 「所長、了解しました。 いってらっしゃい!」 と敬礼するYOUを残して、俺は沙織の学校を目指した。 沙織の友達に話しを聞くと、彼氏の名前は拓斗。 都内の大学に通っているということだ。 沙織の親友のアルバイト先で知り合ったらしいが、あまり評判はよくない。 最近までバンドをやっていたと言うが、ヤクザまがいの連中とつるんでいるらしく 高校生にまでやばい薬を勧めたりしているという。 それに沙織本人も親に見せる顔と別の顔があるようだ。 お嬢様学校から一歩外に出たらすぐに着替え、 他校のアバズレを引き連れて あちこちのゲームセンターで遊んでいるのを何度も目撃されている。 友達には家出すると言って出て行ったらしいが、 それ以来、携帯にメールしても電話をかけても一切返事がなくなっていると言う。 (こりゃ、とてもじゃないが明日中には見つからない) とがっくり肩を落とし、とりあえず事務所に戻る事にした。 「ただいま」とドアを開けると、YOUが 「ほら」とまた札束を俺に見せる。 「どうしたんだ?」と聞くと午後の依頼者も上客で前金として30万も置いていったそうだ。 (昨日100万、今日はこれで80万。 いったいどうしたっていうんだ) これがYOUのあげまんのご利益だとすると、そこに手を合わせ拝みたくなるくらい。 いや、ひと目拝んでみたいのは最初からだが…。 「いやらしい目をして、どこ見てるのよ!」 YOUのデコピンで目が覚めた。 「あ、いや…。 で、どんな依頼だったんだ?」 「これなんだけど…」とYOUの差し出した調査依頼メモを読み始める。 どうやら探したいのは2年前に離婚した時に夫が連れて行った息子ということだ。 元夫が他の女と再婚して家庭で辛い思いをしたらしく、今は家出して消息不明。 最近、渋谷管内の郵便局から友人に手紙が送られたという情報をつかみ、 家出人ハンターの俺に依頼してきたということだ。 「まだ20歳前のアンちゃんが、一人で生きていけるほど甘くないと思うがな」というと 「そんな事ないわ。 誰かさんならそうかも知れないけど、これだけのイケ面なら…」 と俺に写真を見せてきた。 つめえりで坊主頭の写真、おそらく中学生ぐらいか。 それでも確かにホストクラブがスカウトしそうないい男だ。 (おや?どっかで見たような…)と俺はもう一度写真を覗きこむ。 でも、どうしても思い出せなかった。 「この手の男がYOUの趣味か?」 「あら、ヤキモチかしら?でも私は、いくらイケ面でも年下には興味ないの。 40過ぎの結婚暦があるくらいの男じゃないと私の相手は無理でしょ?」 俺?と思い、自分の鼻の辺りを指差すと 「あはは、例えばって事よ!」と容赦ないお言葉で笑い飛ばされた。 「でもこれだけのイケ面なら目立つだろうから、細かく聞き込みをすれば見つかるだろう。 こっちは期限はあるのか?」 「特にいつまでと言う事はなかったけど、早く会いたいって泣いてたから…」 とYOUは答え「それより、沙織ちゃんの情報は何かあったの?」と聞いてきた。 俺は聞き込みしてきた情報をYOUに話してやった。 「これだけじゃ、とても見つからないよ…」と最後に弱音を吐くと、 「ちょっと待って」とYOUが携帯を取り出し、あちこちに連絡をし始めた。 どうやら薬を扱っている奴らから拓斗についての情報を聞き出しているらしい。 (どういうネットワークなんだか知らないが…すごいな)と驚き、感心する。 しばらくしてYOUは 「どうやら、彼、渋谷のラブホをねぐらに活動しているみたいだわ。 すぐに行ってみましょ」 と言いだした。 「でも、ちょっと待ってね。 支度するから」 と言ってバスルームに消えると、しばらくしていかにも水商売風の女になって戻ってきた。 「プロ顔負けの変装技術だ…」 と言いかけて、YOUが元キャバクラ嬢だということを思い出した。 「うふふ、これならキャバクラに入れ込むスケベおやじと、 しっかり稼ぐ美女のカップルに見えるでしょ。 ホテルに入っても誰も怪しまないわ」 「スケベおやじかよ。 じゃ、俺も変装しなくちゃ」というと 「あら、もう変装してるんじゃなかったの? そのままで誰が見てもこれ以上ないスケベおやじだから大丈夫!」 と俺の腕を取って渋谷に向かった。 俺たちは円山町のラブホ街に到着した。 「ここだと思うけど…」と言うと時計を見た。 「まだ早いわね」というと、「とにかくちょっと中を調べてきましょ」 と俺の腕を引っ張り、中に入っていった。 このホテルはルームチャージがかなり高い。 部屋の写真を見てもかなりゴージャスなものばかりだ。 「どの部屋にしよう?」というYOUに 「必要経費なんだからどれでも経費で落とすよ」と答えてやる。 「今、埋まっているのは5部屋ね。 このどれかに拓斗がいるはずよ」 そういっている間に、カップルがチェックアウトしていく。 耳を澄ませ聞いていると、どうやら305号室の客らしい。 「これで候補は4室ね。 2階に1部屋であとは5階。 沙織ちゃんが一緒ならお金に困ってないだろうから、たぶんこの部屋じゃないかな?」 「なぜ?」 「だってこの部屋、いろいろゲームが出来るでしょ。 沙織ちゃんゲームセンターに 入り浸っていたって言ってたから、多分この部屋を選ぶと思うわ」 とゲーム機が並ぶ504号室を指差した。 「じゃ、俺たちはその隣の部屋に入るとするか」 「OKよ!」 と言って俺は505号室のルームキーを取りエレベーターのボタンを押した。 505号室に入るとその部屋はミラールームだった。 さすがに床面はエンジの絨毯だが、壁面から天井まですべて鏡張り。 「写真ではずいぶん大きい部屋に見えたけど、あれ、ミラーだったんだな」 俺が言うと、 「あら、気づかなかった?私、チコさんが503じゃなくてこっちを選んだから てっきりエッチな姿を鏡に映して楽しむのが趣味なんだと思ってたわ」 「そんなこと…」 「ない?」 「き…嫌いじゃないけど…」 「けど、何?」 「好きです。。。 」 「そうだと思ったわ。 このエロおやじめ!」 と言うと、いきなりベッドに乗って四つん這いになる。 ミニスカートの裾から派手な色の下着が少しだけ見えている。 (いきなりバックから?) ごくりっと喉を鳴らしその無防備な姿を見ていたら、 YOUは壁に耳を当て隣の部屋の様子を探り始めた。 「何か聞こえるか?」と小声で言うと 「し!今いいところなの…」と答える。 (もしかして…アレの最中?)と思い急いで俺も壁に耳を当てる。 聞こえてくるのはバキューン、バキューンという銃声と少しホラーっぽい音楽。 「なんだよ、もしかしてゲームか?」 「そうよ。 これ、もうすぐエンディングだと思うわ」 「やったことあるのか?」 「勿論よ。 ところで、何だと思ったのよ?」 「あ…いや。。。 」 「また、エッチな事考えてた?しょうがないなぁ、溜まってるなら抜いてあげようか?」 っという歓迎すべき提案。 俺は上司だからとも考えたが、結局欲望には勝てず「お…お願いします」と答えてしまった。 YOUは勝ち誇った顔で「うふふ、いいわよ。 どうやって?指?口?それとも…」と聞く。 俺は黙ってその先を聞こうとごくりと喉が鳴らす。 急いでそこに身を横たえてじっとしていた…。 すると、「あれ?お隣のゲーム、エンディングになったわね。 出かけるかもしれないわ」 とYOUは慌しくベッドから降りてしまった。 「そんな殺生な…。 これどうするんだよ」 俺は情けない顔で下半身を指差す。 「あ~、ほんとに残念だったわね。 坊や、仕事が首尾よくいったらたっぷり可愛がってあげるからね」 とズボンの上から欲望の源に軽くキスをしてくれた。 俺は仕方なくジャケットを着てコートを手に取り出て行こうとする。 「待って!休憩だと二人では行けないから、一人買い物に行くってフロントに連絡するわ」 いやはや、何から何まで手際がいい。 YOUがフロントへの連絡を終えた頃、隣の部屋からカップルが出て行く気配がした。 「状況は小まめに連絡してね」と携帯を手に俺を見送るYOUを残し、 俺は隣のカップルがエレベーターに乗るのを確認してから階段を使って駆け下りた。 1階に下りフロントに声をかけようと近づくとホテルを出ようとする若いカップルがいる。 パンツの見えそうな短いミニスカートを履く女の横顔が見えた。 間違いない、神部沙織だ。 そしておそらく、男は拓斗。 奴は聞き込みの時に聞いた風貌そのもの。 二人はどうやら、センター街に向かっていると俺の勘が働いた。 俺は沙織と拓斗を尾行しながら3人に電話をかけた。 一人は路上でキャバクラ嬢のスカウトをしているジョージ。 もう一人は黒人娘のストリートミュージシャン、シャーリー。 そして宮下公園をねぐらにする浮浪者のカンちゃん。 彼らはみんな渋谷を本拠地に活動する俺のおかかえの情報屋だ。 俺は家出娘の集まる渋谷、新宿、池袋にはこうした情報屋を持っている。 業界で家出娘ハンターと呼ばれるようになったのは、彼らの功績も忘れてはいけない。 彼らに「すぐにセンター街に来てくれ」 と電話しながら尾行を続けると案の定、ターゲットはセンター街に消えていった。 間もなく情報屋の3人が集まった。 俺は彼らのポケットに1万円ずつを放り込むと沙織の写真を渡した。 「家出娘探しだ。 ターゲットは茶髪でロン毛の革ジャンを着た男とセンター街にいる。 ジョージとシャーリーはやつらを尾行して、行動を細かく連絡してくれ。 カンちゃんはここを出てからねぐらに入るまでの尾行を頼む」 と仕事を与えた。 「了解だ、さっそくいくか」とシャーリーの腕を引っ張るジョージに 「ちょっと待ってくれ」と俺はもう一枚写真を見せた。 祐一の写真だ。 それを見るなり3人が腹を抱えて笑い出した。 「こいつのこと、知ってるのか?」と怪訝な顔で聞くと 「冗談だろ?チコさん気づかないのかよ、ヒヒヒっ、苦しい!」 とカンちゃんが笑いころげている。 「えっ?誰だよ?」と言うと、シャーリーが 「これ、ロマン倶楽部のメグちゃんでしょ、あははは」 「メグ?」俺はもう一度写真を見直す。 確かにこれはこの界隈で売り出し中のニューハーフ、メグに間違いない。 (しまった!坊主頭だったから分からなかったか) と己の想像力の乏しさに肩を落とし「ありがとよ」と言って 彼らのポケットにもう5千円ずつ放り込んでやった。 「あとは頼んだぞ。 俺はこれと今夜のねぐらにいるから」と言って、小指を立てると 「へ~、珍しい事もあるわね。 張り切りすぎて腰が立たなくならないようにね、ふふふ」 とシャーリーが妙な微笑みを残してセンター街に消えていった。 俺は早速ホテルに向かう。 何か手に持って帰らないとフロントに怪しまれるなどと妙に気をまわし、 サーティーワンでチョコミントのアイスを買い込み部屋に戻った。 部屋に入ると、YOUの姿が見えない。 少しすると、全裸でバスルームから出てきた。 「きゃ!見ちゃいや!」 元来正直者の俺は、YOUのその声で反射的に両手で眼を覆った。 (しまった…)と後悔したが今更手はどけられまい。 「もういいわよ」 という合図で手をどけるとバスタオルを巻いたYOUが歩み寄ってくる。 「今、お風呂場の上のパネルを外して、隣の部屋に行ってきたわ」 とドヤ顔で504号室の報告をしてきた。 504号室の中はかなり散らかっていて、 テーブルの上には白い粉が入った包みがいくつも置いてあったそうだ。 俺も奴らの行動は情報屋が尾行していると報告してアイスをYOUに渡した。 「それともうひとつ。 祐一の居所もつかめた」というと 「家出娘ハンターって本当だったのね。 格好いいわ、尊敬しちゃう!」 とYOUが勢いよく俺の胸に抱きついてきた。 思わず俺がベッドに倒れると、YOUが身体を起こし俺の目を見つめる。 「ねっ、時間があるみたいだから、中途半端だったさっきの続き…、してあげようか」 とバスタオルから色っぽい谷間を覗かせる豊かな胸を俺に押し付けてきた。 (やっとご褒美にありつけるか) とほくそ笑み、そっと唇を近づける。 「私で気持ちよくなって…」と言いながらYOUが応えてくる。 舌を絡めるとYOUは喉の奥でエロティックなうめき声を立てはじめた。 目を開けるといつの間にか部屋の明かりが暗くなっている。 バスタオルがはずれそうになるのも気にせず YOUは俺の着ているものを手早く脱がせていく。 「YOU」と声をかけると 「チコさん…好きなだけ私を見せてあげる。 私の一番エッチな姿…見て」 といいバスタオルを外しかけたところに、携帯が鳴り出す。 (なんてタイミングだよ!)と舌打ちすると 「もう!せっかくいいところなのに」 と言ってYOUもむくれ、バスタオルを巻きなおしソファーに移ってアイスを食べはじめた。 ガックリしながら携帯に出るとシャーリーの声が聞こえた。 「お楽しみ中、ごめんなさいね。 報告よ」 「ああ、ごくろうさん。 どうした?」 「あの連れの男、やばいよ。 竜神会の若い奴らに何か渡してたよ」 「そうか、薬の売人のバイトをしてるらしいからな。 で、沙織はどうしてる?」 「今、ゲームセンターにいる。 ジョージが見張ってるから心配ないわ。 さ、続きを楽しんでね」 と答え、電話を切った。 俺は今の報告をYOUに伝える。 すると、アイスを食べ終えたYOUが 「そうかぁ、拓斗のバックは竜神会だったのね」 「知り合いはいるか?」 と聞くと、残念ながら強いコネクションはないという。 「この様子じゃ当分落ち着きそうもないわね。 せっかくチコさんを喜ばせてあげようと思ったけど、先に一仕事の方がよさそうね」 とつれない申し出をする。 気持ちは(大丈夫だよ)と反論していたが 「そうだな、仕事が終わってからゆっくり楽しもうか」 と上司ぶった答えをしてしまった。 「仕方ないか…。 じゃぁ、このお部屋、今夜、お泊りの予約を入れといてくれる?」 「いいけど、今夜片付くかな」 「早く片付ければここで続きができるって目標になるでしょ。 いつもより頑張れるかもよ?」 と言うYOUのナイスな提案を受け入れ、 後ろ髪をひかれる思いを断ち切り、センター街へと向かった。 途中、カンちゃんがメグを連れて歩いているのに出くわす。 「チコさん、今、メグに逢ったんで連れてきたぜ」 と俺に引き渡してくれた。 「カンちゃん、ありがとな。 沙織のほう、まだセンター街みたいだから、そっちを頼む」 と礼を言うとすぐに所定の場所に戻っていった。 YOUがメグこと祐一の顔を覗きこむ。 店への出勤前らしく、化粧もばっちり。 小顔で華奢な女子アナ風のルックスに毛皮のコートがとても似合っていて その辺の女じゃとても太刀打ちできないほど女らしい。 最近売り出し中と言う事もあって、 メグの顔を見て「今夜店に行くぜ」と何人も声をかけていく。 そいつらに愛想笑いを振りまきながら、メグは 「何なのよ!やっと憧れのチコさんから声がかかったと思ったら、女なんかと一緒に」 とむくれた顔を俺に向けてきた。 「いや、こいつは俺のアシスタントだ」 と説明すると「ふ~ん、チコさんオカマ好きだったんだ」と今度はYOUがヒールで足を踏む。

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Official髭男dism(ヒゲダン)Laughter歌詞と発売日|映画「コンフィデンスマンJP プリンセス編」主題歌

お ひぃ しゃ る ヒゲ ダンディズム 歌詞

楽曲の基本情報 今回紹介していく 「I LOVE…」は、人気沸騰中の国内バンド、Official髭男dismのシングル曲。 また同楽曲は上白石萌音と佐藤健が共演するTBSドラマ 「恋はつづくよどこまでも」主題歌の表題曲であり、そのために書き下ろされたナンバーになります。 つまり楽曲に込められたメッセージを真に読み取っていくためには、大まかな ドラマの理解が必須なのですが、、、これに関してはOfficial髭男dismさん本人がコメントを残しています。 それが以下。 今回、「I LOVE…」という曲を作りました。 リスナーの皆さんにとっての大切な存在を思い浮かべながら聞いていただけたらうれしいです。 この前情報だけで、楽曲の雰囲気に共通する愛の深さが伝わってくる。 MVでも世界中に存在するたくさんの愛の形が描かれていましたね。 髭男が綴る 「広義的な愛 LOVE 」はどのように表現されているのでしょうか。 さっそく楽曲考察に移っていきましょう。 楽曲名「I LOVE…」とは まずは楽曲タイトルについて 「I LOVE」とはシンプルに和訳すると 私は愛している。 という意味になります。 楽曲タイトルとしての「I LOVE」も間違いなく上記の意味であるのですが、語尾に敢えて付けられた 「…」が奥ゆかしさを感じさせますね。 愛ひいては感謝の歌。 藤原さんはそれをどのように言語化したのでしょうか。 スポンサーリンク 歌詞 僕が見つめる景色のその中に 君が入ってから 変わり果てた世界は いつも卒なくこなした日々の真ん中 不思議な引力に逆らえず崩れてく I Love なんて 言いかけてはやめて I Love I Love 何度も 高まる愛の中 変わる心情の中 燦然と輝く姿は まるで水槽の中に飛び込んで溶けた絵の具みたいな イレギュラー 独りじゃ何ひとつ気付けなかっただろう こんなに鮮やかな色彩に 普通の事だと とぼける君に言いかけた I Love その続きを贈らせて 見えない物を見て笑う君の事を 分かれない僕が居る 美しすぎて目が眩んでしまう 今も劣等感に縛られて生きている I Love I Love 不恰好な結び目 I Love I Love 手探りで見つけて I Love Your Love 解いて 絡まって 僕は繰り返してる 何度も レプリカばかりが飾られた銀河 カーテンで作られた暗闇 嘆く人も居ない 鼠色の街の中で I Love その証を抱き締めて 喜びも悲しみも句読点のない想いも 完全に分かち合うより 曖昧に悩みながらも 認め合えたなら 重なる愛の中 濁った感情の中 瞬きの僅かその合間に 君がくれたプレゼントはこの やけに優しい世界だ イレギュラー 独りじゃ何ひとつ気付けなかっただろう こんなに大切な光に 普通の事だと とぼける君に言いかけた I Love その続きを贈らせて 受け取り合う僕ら 名前もない夜が更けていく 作詞作曲:藤原聡 スポンサーリンク 歌詞の意味・解釈 1番 僕が見つめる景色のその中に 君が入ってから 変わり果てた世界は いつも卒なくこなした日々の真ん中 不思議な引力に逆らえず崩れてく I Love なんて 言いかけてはやめて I Love I Love 何度も まず前提として、冒頭文でも述べたように 親から子供に向けての愛 という視点を軸にして歌詞の考察を進めていきます。 生きている景色に君が入ってきた瞬間、つまりは君がこの世に生まれてきてくれた瞬間、僕の世界は一変する。 1番では 僕から見た君の輝き が強く強調されて描かれており、自分を変えてしまうほどの影響力を持つ存在の大きさ、ひいては 出会えたことの喜びがこれでもかと言うくらい凝縮されています。 不思議な引力で君へ吸い込まれる僕は、いつも君のことばかり考えている。 それくらい君に対する愛は絶対的なもの。 これから展開されていく歌詞はさらに愛に溢れています。 歌詞を追っていきましょう。 サビ1 高まる愛の中 変わる心情の中 燦然と輝く姿は まるで水槽の中に飛び込んで溶けた絵の具みたいな イレギュラー 藤原さんは楽曲について 「人生を彩る全ての大切な存在へ」とコメントを残していましたが、まさに 「彩る」という言葉通りに色彩的な表現で心情の表現がなされています。 特に秀逸的なのは 水槽の中に飛び込んで溶けた絵の具 という歌詞表現であると個人的に思っており、本来「透明」であった水の中に「色鮮やかなインク」が混じった。 インクが滲んだようなジャケット写真の伏線回収ですね。 こんなにも燦然 キラキラした 存在がいるなんて、僕にとっては本当にイレギュラー。 予測の範疇を超えた愛おしさは、まさに人生の例外。 独りじゃ何ひとつ気付けなかっただろう こんなに鮮やかな色彩に 普通の事だと とぼける君に言いかけた I Love その続きを贈らせて ここの歌詞に関しては• 子供に対する愛情• パートナーに対する感謝 のどちらに当てはめても筋が通る、とにかく感謝と愛情に溢れた内容だなと感じました。 君にとっては普通のことかも知れない。 だが僕にとっては君の存在が、ひいては当たり前に一緒にいてくれる家族の存在が心から嬉しいものなのだ。 なんせ家族は人生に色を与えてくれた特別な存在なのだから。 ここでふと感じたことが1つ。 それは藤原さんが綴る色彩的な愛情表現ってとても素敵だなと。 というのは別楽曲でも 素敵な解釈ですね! ただ2番は僕は違う解釈でした。 もっと切なさを感じてるのかなと。 自分が見えなくなってしまった世界を感じれられる子供に対し、眩しいくらいの純粋さを感じ、それが分からない自分自身に劣等感を感じている。 なんとか君の世界観に近づきたくて君との間にある結び目を見つけて解いては絡まる、そんな事を繰り返してる。 大人たちが作ったレプリカだらけの世界、人工的に作られた暗闇、まるで白黒みたいな無機質な世界かもしれないけど、自分があなたを愛してることが生の証なのだとかんじて、あなたを抱きしめる。 という理解でした、その方がラスサビにつながるかなと。 とにもかくにも想像力かきたてるいい歌詞ですよね! 素敵な解釈ですね! いろんな解釈ができそうです。 僕は大前提としてなぜI LOVE YOUとはっきり言えないのか、と言う疑問が残ります。 子が親に対してI LOVE YOUとはっきり言えないなんてことはないと思います。 僕はプリテンダーで言われるのと同じく不倫の歌だと思ってます。 もしくは教師や生徒など世間的に歓迎されないような関係。 はっきりI LOVE YOUと言ってしまえない苦悩があると感じます。 どう言う関係なのか、不格好な結び目を解いて、絡まって、、、 逆に名前のある夜は誰と過ごしているのだろうとか考えます。 このI LOVE…とプリテンダー、イエスタデイも不倫の歌だと思ってます。 藤原さんは法の前に人として愛してしまうことと現実の世界での狭間の心情を歌っているからヒットするのだと思います。 今世間からめちゃくちゃ叩かれる不倫ですが、それを含めながら楽曲に乗せてヒットさせ、国民的歌番組である紅白で歌ってしまう藤原さんはさながらバンクシー的な天才感を感じます。 雑誌などのパブリックコメントも仕掛けの様な気がしてなりません。 ちなみに不倫は当事者同士の問題で肯定も否定もしませんが、反倫理的行為であって、反社会的行為とは言わないかと。

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【Official髭男dism/I LOVE…】歌詞の意味を徹底解釈!親から子への愛情に感動が止まらない。

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全角75418. 5文字 容量150837 bytes 原稿用紙約188. 55枚 俺は生まれてから17年間、一度も転校というものをしたことがない。 俺の家はとにかくぼろい。 築50年は経っている。 床が抜けているところもあるし、窓枠がアルミじゃなくって木製だぜ。 すきま風は入り放題で一酸化炭素中毒にはならない安全住宅だ。 信じられるかい? 要するに俺はこのぼろ家しか家と言うべきものを知らない。 このぼろ家〈森泉(もりいずみ)家〉には、 いつも真剣なのか不真面目なのか分からない親父・正稔(まさとし)と。 ゆっくりしたいなんて言いながら、自分から忙しくしている母さん・諒子(りょうこ)と。 何事にも動じない大人の風格を持つ猫のクルツと。 クールに、時には熱く生きたいなんて思いながら、無為に日々を過ごしてる俺・浩之(ひろゆき)が住んでいるのさ。 でも、このぼろ家には俺の思い出が詰まっている。 ついでに親父と母さんと猫1匹の思い出も。 1 手紙 母さんへ。 お願いですから世間の常識を持ってください。 自分が一児の母親である自覚を持ってください。 他にはなにも望みません。 これが俺の本音です。 俺の母さんは独身時代に国営放送でアナウンサーをしていた。 結婚を機に国営放送は退職したが、その後も映画に出演したりと忙しい。 と言っても、暗い映画らしいから俺は観たことはない。 若い頃の母さんを知る人は「映画にも出たぐらい諒子さんは綺麗だったよ」なんて言う。 だからこそ若い母さんが出ている映画なんて気恥ずかしくて観たくもない。 ま、息子の俺が言うのもなんだが、母さんは美人の範疇に入ると思う。 子供の頃は母さんが自慢だった。 参観日では友達のお母さんたちと比較しては意味のない勝利に酔いしれることも。 ついでに言うなら社交的な性格で男女問わず知人友人が多い。 いつも朗らかで人の中心にいる。 友達には「浩之、おまえの母さん綺麗だし明るくて良いなぁ」なんて羨ましがられることも。 でも……、 アクション物のアニメが好きで、家事を放り出してテレビにかじりついている姿は家族以外知らない。 俺が買ってくる少年マンガを楽しみにしていることを俺の友達は知らない。 家ではずぼらで料理が下手なことを世間は知らない。 親父と結婚したことを後悔していることを……親父は知っているかもしれない。 外面は平穏だが内情は色々。 でも、どこの家庭も似たようなものだと思う。 せいぜい違うことは俺の母親が森泉諒子だと言うことぐらい。 それが一番頭が痛いところだ。 一人息子としては……。 * * * 今日は火曜日。 現在、午後1時20分。 クラスメイトは学校の裏山を走り続けているはず。 今日は全校一斉マラソン大会の日。 昼飯も食わずに汗を流しているだろう。 ご苦労なことだ。 俺の通う晴稜高校では他校が体育祭を行う時期にマラソン大会がある。 男子20キロ、女子15キロをひたすら走るだけ、俺たち3年生も特別扱いはされない。 クラスメイトからは「受験生に走らせるなよ」とか「体調崩して受験に失敗したらどうするんだ」と怨嗟の声が上がっている。 そんなに嫌ならサボればいいと思うのだが、みんな変に真面目でサボるヤツは少ない。 内申書に響くのを恐れているのが本音だろうけど。 ま、俺には関係ないことだ。 俺は入れればどんな大学でもかまわないし、専門学校って道もある。 だからマラソン大会はサボることにして昼近くまで爆睡していた。 親父は出勤が早いから朝は俺と顔を合わせることはないし、母さんは留年でもしない限り「浩之の人生なんだから好きにしなさい」と、俺の自主性を尊重してくれる。 と言うわけで居間のソファーに陣取って、滅多に見ることのない昼ドラなんぞ鑑賞しつつ遅めの昼食を始めるところだ。 昼ドラは面白いんだか面白くないんだかさえ判断つかないストーリー。 でもこんなのを今までずっと放送してきたのだから、それなりに需要があるんだろう。 男の俺には分からない何かが専業主婦達の心を鷲掴みしているのかも。 主婦って分からねぇ。 昼ドラはともかく、昼食は満足できる一品さ。 冷蔵庫にニンジンとグリュイエールチーズが入っていたのを幸いにニンジンのフランなんぞ作ってみた。 フランス料理のコックになるのも良いかなと思える出来映え。 自慢だが俺は料理が得意だ。 なにせ食品会社の科学者であるくせに、有名レストランで料理を教える親父からみっちり仕込まれている。 美味い。 さすが俺。 高校3年生の俺が学校をサボって、昼ドラ見ながら一流の料理を食べる。 この退廃的な雰囲気がゴージャスな昼食の味をさらに引き立ててくれる。 「ただいま」 俺が一口目を五感すべて使って堪能していると、荷物を抱えた母さんが猫のクルツと一緒に帰ってきた。 別に母さんがクルツと一緒に出かけていたわけではない。 母さんは買い物かなにか、クルツは朝の散歩だろう。 「あら良い匂いね、お母さんの分もある?」 「ないよ。 起きたときにいなかったし、いつ帰ってくるか分かんないもん」 「だったら、それ分けて。 ね、浩之。 凄くお腹空いているのよ」 「いやだよ。 俺だって腹減っているんだから。 自分で作ればいいじゃん」 「ひどい! お母さんが料理下手なこと知ってるくせに」母さんは泣きマネしながら足下にいるクルツを抱き上げ「クルツ、浩之が苛めるんだよ。 お母さんは買い物で疲れているのに労ってくれてもいいのにねぇ」迷惑顔のクルツに同意を求める。 「クルツを味方につけても無駄だぞ」 俺は人獣漫才を無視して三口目を頬張る。 ニンジンの甘さが口内に広がる。 「クルツ、あんた浩之に嫌われてるわよ」 母さんはクルツをソファーに下ろし荷物を漁り始めた。 俺の気を惹こうとでもしているのだろうか? ま、無視無視。 「ねぇ、浩之。 いい物見せてあげるから、お母さんにも食べさせてよ」 「しつこいな!」 顔を上げた俺の目の前で黒猫が金色の目を片方つぶってウインクしていた。 ちなみにクルツは明るい茶色の虎柄だからクルツじゃない。 当然だ、クルツはウインクもしなければ、真っ赤なハートマークも飛ばしはしない。 「かわいいでしょ」 「なっ?」口の中のフランが俺の意志に関係なく食道に滑り落ちていく。 「下着屋さんで見つけて買っちゃった。 いいでしょう。 ほら、後ろにも一匹いるんだから」ご丁寧に後ろの猫も見せてくれる。 「あ、あ……」 首筋に氷でも押しつけられたような刺激がつま先まで突き抜けた。 目眩がする。 頭痛もする。 食欲は遙か20光年彼方みずへび座ベータ星の先まで飛んでいった。 こめかみの血管がぴぅぴぅ脈打って存在を主張する。 閉じようとしても口が勝手に開いてしまう。 「はぁぁぁぁっ」何とも表現しがたい塊が胃の腑からせり上がってくるのを押さえつけ「母さん、あんた今年でいくつになった」感情を抑えた声を絞り出す。 「ん? 41歳よ。 お母さんの歳忘れちゃったの? お母さん悲しいわ」 「41歳だよな。 41歳なら41歳らしいことしろよ。 17歳になった息子が母親のパンツ見せられて嬉しいとでも思ったのか?」 「嬉しくないの?」 「あのなぁ」可笑しくもないのに引きつった笑みが浮かんでくる。 俺だって前を歩いている女の子のスカートが風でまくれれば条件反射のように目は行く。 それだって条件がある。 上限は20台まで。 そりゃぁ世間には女物の下着に異常な執着を見せる性癖のヤツもいる。 けど俺は布きれより中身のほうに興味があるんだ。 だいいち新品とはいえ、そのパンツは母さんが穿くんだろう。 だったらパンツの中身は……。 想像してしまった自分が憎い。 死にたくなってきた……って、自殺の理由がパンツじゃ浮かばれねぇよ! 「いい加減にしまえよ」 「本当は嬉しいくせに。 ほら、もっとよく見てもいいのよ」 母さんはにやらにやらと嫌な笑みを浮かべパンツを差しだしてくる。 「なにが悲しゅうて真っ昼間からパンツ見物してなきゃならないんだよ! 頭痛くなってきた。 外に行って来る」 「あら、出かけちゃうの。 これもう食べないの?」 母さんはまだ5分の1も食べていないフランを自分の手元に引き寄せる。 「食欲がなくなった。 もういらねぇ」 「じゃあ食べちゃうわよ。 クルツも一緒に食べようね」 「なぁぁぁう」 「勝手にしろ」 居間のドアに手をかけたとき、 「浩之。 ひょっとして、お母さんだけが猫ちゃんパンツ買ってきたから拗ねてるの?」 俺は無言でドアを閉めた。 昼ドラを見る主婦達よりも、俺には実の母親が分からない……。 母さんへ。 どこで見つけたか知りませんけど、猫パンツを買ってこないでください。 俺にこれを穿けと言うのですか。 母さんとパンツのペアルックは勘弁してください。 他にはなにも望みません。 これが俺の本音です。 でもそれは建前上のこと。 自主補習の名目で土曜日にも授業がある。 それも4時間も。 一応参加は生徒の自由となっているけど、出席もとるし、クラスメイトも真面目に出席する。 かく言う俺も3年生になってからはほぼ皆勤賞だ。 一応大学には行きたいし、いつも赤点ぎりぎりの成績だからこのあたりで内申を稼いでおかないとヤバイ。 親父だって土日は休みなのに俺は学校。 なんかおかしくないか今の日本。 ともかく今日もつまらない授業で半日が終わってしまった……せっかくの土曜日なのに。 「ただいま……ぬぁっ!」 居間に踏み入れた俺の足が止まった。 鈍鉄色の銃口が俺の胸を捉えている。 現代日本において学校から帰って来た途端、自宅で銃を突きつけられる高校生がどのぐらいいるのだろう。 どう多く見積もっても0.1パーセントもいないはず。 なに逃避してるんだよ俺。 「おう、お帰り」 親父は何事もなかったように銃口を下げる。 いや、正確には分解したレミントン社製上下二連散弾銃の銃身だけだが……たとえ殺傷能力がないエアガンでも突然銃口を向けられれば気持ちのいいものじゃない。 ましてや親父の銃は本物。 そこから鉛のバラ弾を発射された日にゃ、俺の全身にはお洒落な水玉模様が描かれちまう。 「絶対人間には銃口を向けるな、って言ったのは親父だぞ。 銃は紳士の趣味とか言ってるくせに。 帰ってきた息子に銃口向けるかふつう?」 親父は趣味で散弾銃を撃つ。 生き物を殺すのは嫌いだから、クレー射撃と言って飛ばした皿を撃つのが専門。 趣味ゆえにマナーにはうるさい。 はずだ……。 「銃の手入れ中に急に入ってくるから弾みで、つい。 まぁ銃身だけじゃないか。 悪意はなかったんだから、そう怒るな」 親父は機関部についた油を綺麗にふき取り散弾銃の手入れを続ける。 「悪意ねぇ、悪意はないかもしれないけど善意もないんだろう」 「おい、おい、俺は浩之の親だぞ。 いつも善意でいっぱいだ」 嘘っぽいセリフを嘘臭い笑顔でさらりと良いやがる。 セリフもセリフだが、まずその笑顔はよせ、笑うと怖いんだよ! 俺の親父は結構強面だ。 ヤクザ映画の登場人物並みの悪相な上に、大学時代は柔道部だっただけあって身体はゴツイ。 本当のガキだった頃は親父と外出すると人混みでも他人がよけてくれ、誇らしいのと同時になにやら恥ずかしいという不思議な感情がいつもあったことを覚えている。 粗暴的な見た目と違って頭は良い。 北海道大学で食品発酵を学び、卒業後は食品会社の研究所で研究員を務めている。 あの顔で繊細な研究というのは信じられないが……優秀な科学者と言うことだけは確かだ。 でも美人の母さんと並んでいると、実の息子が言うのもなんだが美女と獣。 ちなみに我が家の本当の獣クルツは太っていて暢気で野性味の欠片すら感じられない。 「嘘くせぇ」 「嘘なものか。 浩之が腹を減らして帰って来ると思って昼飯だって作ってあるんだぞ」強化プラスチック製のケースに銃をしまうと、台所からオムライスと運んでくる。 「温めなおすの面倒だからこのままでいいだろう」と言って俺の前に置く。 「冷めててもいいよ、腹減ってるし。 んじゃ、いただきます」 肉厚の卵焼きに包まれただけのシンプル料理。 ケチャップすらかかっていない。 中身も細切れのハムを入れたライスをオリーブオイルで炒めただけの単純な物。 それだけに手抜きをすれば一発でばれる。 「どうだ?」 「不味くないよ」俺は素っ気なく答える。 本当は不味くないどころか凄く美味い。 親父は仕事の一環で料理の試作を作る機会が多い。 その関係で一流コックとの付き合いも多く、色々と教えてもらって料理が上手い。 母さんが料理が下手な分、森泉家的に見ればバランスがとれているのかも。 そんなことはどうでもいいが、とにかく美味い。 でも、さっき銃口を向けられ恨みは忘れねぇ。 俺は恩は3日で忘れても、恨みは死ぬまで忘れないイギリス人体質なのさ。 「そうか」親父の返事も素っ気ない。 「ところで母さんは?」 「急に仕事が入って昼前に出かけたよ。 今日は久しぶりに射撃場に行こうと決めてたのに残念だ。 今月は1回も撃っていないから行きたかったのに」親父は未練がましく銃を納めたケースを見ている。 「あっ、そう」 親父の愚痴なんか聞く気はない。 だいいち俺は腹が減っているんだ。 目の前の獲物を片づける方が忙しい。 「ごちそうさま」 「どうだ?」親父は空になった皿と俺の顔を交互に見る。 どうしても俺に美味いと言わせたいようだ。 「しつこいなぁ、不味くないって言ったろ」 「……」無言のまま皿を台所に持って行った親父は、水の入ったコップを持って戻ってきた。 ついでに小さなビンも一緒に。 胃薬? 何これ? 「浩之が食ったオムライスにハムが入っていたろう。 あのハムなぁ、実は半分腐っていたんだ」 「あぁ、俺に腐った物食わせたのかよ」 「いや、完全に腐っている部分は捨てた。 でも使えそうな部分が結構あったから。 あのハム高かったからもったいないし」 この人何言ってるの? 「だったら親父が自分で食べればいいだろう!」 「あのなあ、人間の身体の中には腐敗したタンパク質に対する抗体はないから危険なんだ。 そんな危ない物食べるなんて冗談じゃない」親父は俺から視線をそらし、つけたばかりのタバコを勢いよく吸い「でも熱も通してあるし、まぁ浩之は若いから大丈夫だろう。 たぶん……一応薬は飲んでおけ」煙と共にほざきやがった。 「やっぱり善意なんてねぇじゃねえか」 「なにを言う。 昔から肉は腐りかけが一番美味いと言われているんだぞ。 だから愛する息子にそれを食べさせてやった親心が分からないのか」 「わかんねぇよ! 冗談にも程があるぞ!」 「おぉ怖い。 怖いから俺は射撃場に行ってくるわ」親父は銃を入れたケースを持ち上げ、いやらしい笑いを浮かべる。 「浩之は外出するなよ。 食あたりの場合は凄い下痢するはずだから、外に出ていたら非道い目に遭うからな。 と、言うことで留守番よろしく」 言い終わる前に親父の姿は玄関へと消えていく。 「待て親父ぃ、最初から……」 俺の声はエンジン音にかき消されてしまった。 しゃひっつ、しゃひっつ。 脚がぁ。 ノコギリのように微細な突起が生えたツチイナゴの後ろ脚が奥歯に挟まって気色悪い。 「だめだ……」 俺は口の中の異物をティッシュにはき出す。 「親父、こりゃ人間の食い物じゃねぇよ」 俺はツチイナゴの佃煮を盛りつけた皿を親父の方へと押しやる。 「そうだよなぁ」 親父はツチイナゴの佃煮を箸でつまみ上げる。 体長5センチ、本来の灰茶色は醤油で飴色に染まっている。 後ろ脚がピンと伸びてまるで生きているよう。 ああっ美味しそう……な、ワケない! 「これだけでかいイナゴだと食べる気は起こらないよなぁ」 親父は自分の口に入れることなく、さっきから興味津々でツチイナゴの佃煮を見ていたクルツの前に置く。 しゃひっつ、しゃひっつ、しゃひっつ。 「なぁぁぁぁう」クルツは非常に気に入ったようだ。 目を輝かせて次のイナゴを待っている。 さすが腐っても猫、人間に飼われていても野性味を忘れてはいない。 いや、単に食い意地が張っているだけかも……。 「モニターとして母さんも1匹食べてみてくれないか」 親父は自分では食べないくせに母さんにも勧めている。 うわぁ、母さんは露骨に嫌な顔をしてるよ。 俺知らねぇ。 「嫌よ!」 ま、当然の反応だろう。 蜂の子やザザ虫を食べる地域はあるけど、一般的には虫は食べない。 ましてや女性で虫好きはそういないだろう。 俺だって虫は食べたくない。 気付よ親父。 親父の勤める食品会社では他社からの新製品開発なども引き受けている。 たいがいは特産品を使ったお菓子やジュースの類だが、今回依頼してきた地域にはたいした特産品もなく、強いて言えばツチイナゴが多いからと安直にツチイナゴの佃煮の発想になったそうだ。 親父も仕事だからツチイナゴの佃煮を作り、それを土産として持って帰り「珍しい物だろう、ちょっと食べてみてくれ」テーブルの上に置いた。 大口のビンに入ったイナゴはホワイトアスパラガスの缶詰みたいに頭を上にして縦にびっちり詰まっている。 上から見ると無数の目が見つめていて、ちょっとしたスプラッター気分が味わえる。 小さいイナゴの佃煮なら食べるのにそんなに違和感ないだろうけど、これだけ大きくて正にイナゴという感じだと食欲は湧かない。 親父から5千円のモニター代が出ていなければ口に入れる気はならなかったろう。 あっさりとしていながらコクのある上品な溜まり醤油の風味が生きている。 親父、あんた良い仕事しているよ。 でも見た目と食感が……。 「なぁ親父、こんなの本当に売れるのか?」 「ん? 売れないだろうなぁ」自分で作っておきながらあっさり否定する。 「昆虫類は生産調整もしやすい素晴らしいタンパク源だけど、見た目のせいで人気はないからな。 しょうがないからキャットフードとして売り出すようにと報告しておくさ」 親父は投げやりに答え、イナゴをもう1匹クルツに投げ与える。 「浩之も飲むでしょう」 夕食も終わり居間でまったーりしていると、台所から戻った母さんがコーヒーを淹れてくれた。 親父はいつものように大学生の一気飲み並みの勢いで酒を飲んで潰れて寝ている。 俺の家じゃ10時以降は親父はいないも同然。 ま、自分が稼いだ金で酒を飲んでいるから良いけどさ。 「ねぇ浩之、さっきの佃煮懐かしい味がしなかった?」 「佃煮が? 別に懐かしくないよ」 苦手でも好物でもないから、佃煮にまつわる思い出なんてない。 「佃煮じゃなくって、イナゴの方よ」 イナゴの佃煮を食べたのは今日が初めてのはず。 「ゴメンねぇ、実は浩之に隠していたことあったんだ」 母さんはニコニコしながら両手を合わせ謝るマネをする。 「ねぇ隣に原っぱがあったの覚えている?」 「ああ」 俺の家の隣には公園がある。 公園になったのは俺が小学生になった頃で、その前は何もない原っぱが広がっていた。 ガキの頃は近所の友達と鬼ごっこしたり秘密基地を作った覚えがある。 「浩之がまだハイハイもできない赤ちゃんの頃、あの原っぱで毎日日向ぼっこさせていたんだよ。 覚えていないでしょう」 「当たり前だろう、そこまで記憶力が良かったらもっと良い高校に行ってたさ」 「そうよねぇ。 浩之の頭じゃねぇ……」母さんはうんうん頷いている。 「あのぉ……普通の親だったら『浩之は本当は頭が良いのよ』とか『浩之は大器晩成だから気にしなくて良いのよ』とか言うんじゃないんですか……」 「あら、子供を正当に評価するのは親の務めよ。 過度に期待をかけると子供は歪んで育っちゃうからね」 俺はもう高校3年生だぞ、歪むも何もないだろう。 もう性格も根性も変わらないよ。 俺をからかっているのか、真面目にそう思っているのか、コーヒーを飲む母さんの表情からは読みとれない。 「で、原っぱがどうしたんだよ?」 「そうそう、赤ちゃんの浩之はね、原っぱに座ったままいつも手を動かしてたのよ。 最初は外が楽しくて腕を動かしていると思ったんだけど、よく見ると手を何度も口に持っていくのよ」 「赤ん坊が口に手をやっても不思議はないだろう」 「違うのよ。 浩之はね、そこら辺にいる虫を手当たりしだいに捕まえては食べてたのよ」 え゛! 「止めさせようとしたけど、お父さんは平気だから気にするなって言うし、私も家事とか色々忙しかったから浩之の好きなようにさせてたのよ……浩之って昔から運動神経だけは良かったよ。 大きなバッタなんかも捕まえて食べてたもん」 母さんは凄く楽しそうに衝撃の事実を伝える。 待てや。 毒のある虫(ちょっと思いつかないけど)もいるかもしれないんだぞ。 あんたそれでいいのか? 親として問題あるんじゃねぇの? 「虫に栄養があるって本当ね。 浩之はこんなにも大きくなったもの」母さんはテーブルにおかれていたツチイナゴの佃煮を俺に差しだし「どう、もっと身長伸ばしたくない?」にっこり笑う。 「息子を実験台にするんじゃねぇ!」 俺の身長は174センチある。 俺の身長のいったい何パーセントが虫成分でできているんだろう……。 3 クルツ曜日 クルツが我が家にきたのは俺が小学校に入学した頃だったと思う。 なにせ昔のことだから記憶が曖昧になっている。 尻尾の細いキタキツネ? これが俺の第一印象。 2歳の成猫のくせにガリガリに痩せて、猫と言うよりは貧相なキタキツネかハイエナのよう。 せわしく動く長い尻尾が蛇みたいで気持ち悪かったことを覚えている。 もとい、体重6キロの大猫になった。 俺も一応受験生だけど『今から受験勉強していたら飽きてしまって、本番の時にやる気がなくなっちまう』なんて都合の良い理由をでっち上げ、現実からひたすら前向きに逃避していた。 親父はまだ会社から帰ってきていない。 母さんは俺がこの前古本屋で買ってきた吉田秋生の「バナナフィッシュ」を一心不乱に読んでいて夕食の準備をする気配もない。 昨日カレーを大量に作ってあるから今日もカレーなんだろうけど……憂鬱だなぁ。 母さんは料理が下手だ。 特にカレーとスパゲティーとハンバーグは群を抜いている。 カレーはやたらめったら林檎とハチミツを入れるから甘すぎる。 スパゲティーは茹ですぎていつも離乳食のような食感。 ハンバーグは炭化一歩手前のうえ、オリジナリティーを出そうと色々混ぜる悪癖がある。 この前は短冊に切ったエンリギが入っていて、食いづらいったらありゃしない。 母さんキノコハンバーグってこんなものじゃないです。 受験勉強と母さんの料理から逃避すべく、俺は全力で本に集中しようとしていた……が、 ぱって。 ぱって。 ずっ! ぱって。 ぱって。 ずっ! 奇っ怪な音が俺の耳を刺激し続ける。 かれこれ3分は続いている。 ぱって。 ぱって。 ずっ! ぱって。 ぱって。 ずっ! 何? 隣の和室から聞こえてくる。 ぱって。 ぱって。 ずっ! ぱって。 ぱって。 ずっ! とても本なんかに集中はできない。 なんだよ……。 和室にはクルツがいた。 「あ? 何やってるんだ?」 間の抜けたシチュエーションだが、猫相手に俺は真剣に質問していた。 ペットを飼っている人がペットに話しかける行為はよくあることだと思う。 それは一種の独り言で、ペットの「わん」とか「にゃん」とか鳴き声が返ってくれば良いという程度のものだろう。 でも今の俺はクルツに正式な回答を求めていた。 だって目の前の光景があまりにも俺の理解を超えていたから。 クルツは畳の上で横になっていた。 後ろ足は横に投げ出し、上半身だけ前を向いている。 そして2本の前足を前に伸ばし、まるでスーパーマンが空を飛ぶような姿勢をする。 そしておもむろに、 ぱって。 ぱって。 別にクルツの後ろ足が悪いワケじゃない。 さっきまで普通に4本の足で歩いていたのを俺は見ている。 なのに今はロッククライマーが己の腕を頼りに断崖絶壁を登るように、クルツは畳という広大な未踏の地を己の前足だけで征服しようとしていた。 そしてまた、 ぱって。 ぱって。 ずっ! ぱって。 ぱって。 ずっ! クルツの身体は10センチほど前進する。 さらに前足を伸ばし……。 「ねぇ浩之、クルツ何してるの?」 いつの間にきたのか、母さんが和室をのぞき込んでいる。 「知らね。 俺はドリトル先生じゃねぇもん」 俺だって何をしているのか聞きたいぐらいなんだから。 「あれ、楽しいのかしら?」 「熱中してるから楽しいんじゃない。 知らないけど」 「つれない言い方ねぇ」 母さんは不満そうに言う。 んな、俺だってワケ分かんないんだよ。 クルツと付き合って12年になるけど、こんな動きは初めて見るんだから。 ひょっとしたら俺が学校に行っている間、ちょくちょくやっているのかもしれない。 クルツの動きには手慣れたものが感じられる。 ぱって。 ぱって。 ずっ! クルツは俺の足下をリズム良く通過しようとしている。 「つれないも何もねぇだろう、分かんないんだから。 そんなに知りたいんなら母さんがクルツに聞いてみればいいじゃん」 「いいわよ、聞くわよ。 クルツに教えてもらっても、浩之には教えてあげないからね」 アホか。 母さんは俺の横にしゃがみ「ねぇクルツ、それ楽しいの? お母さんに教えて」 本当に聞いたよ。 この人。 クルツは前足を伸ばしたまま迷惑そうに顔を向けた。 はっきりとした表情は読みとれないけど、楽しみを邪魔するなって顔のような気がする。 「ね、楽しいの?」 クルツは母さんの質問に答えることなく(当たり前だが)、遙か目標へと顔を戻し、 ぱって。 ぱって。 ずっ! ぱって。 ぱって。 ずっ! 畳を滑っていく。 「変な猫だ……」 ひとりごちて、ふと、あることが俺の脳裏をかすめた。 地震の前に猫が騒いだ。 地滑りの前にいつも吠えない犬が吠えまくった。 まさかこの行動は……な、ワケない。 クルツに限っては絶対無い。 こいつには野性味の欠片すらないもの。 ま、猫といえども10年以上生きていれば一人遊びぐらい覚えるだろう。 「クルツ冷たーい」むげにされた母さんは渋々立ち上がり、「もぉ、いいわ。 夕飯でも作ろう。 でもクルツはご飯だけ。 おかずは無しよ」子供じみた意趣返しをしている。 あんたいくつだよ。 猫相手にケンカするなよ。 「そうだ、今晩はカレーハンバーグにしよう」 名案とばかり、自分の献立に満足して母さんは台所へと向かっていく。 カレーハンバーグ? ハンバーグカレーじゃなくって? カレー味のハンバーグ……それまともに食えるのかよ。 ぱって。 ぱって。 ずっ! ぱって。 ぱって。 どうやら近所の女の子達が作ってクルツの首にかけたようだ。 普通の猫ならば嫌がってすぐに外してしまうだろうが、クルツはお構いなしでそのまま帰ってきてしまう。 〈タンポポ猫〉文字にするとかわいらしいけど……似合ってねぇぞクルツ。 ベランダに置かれたイスの上で丸くなり、だらんと垂れ下げた長い尻尾を適当に揺らしては子猫の相手をしていた。 雄猫は子猫といえども他の猫を嫌うと思うのだが……「にゃぐぁあ」の奇声と共にクルツが家の中に飛び込んできた。 盛んに尻尾を舐めている。 興奮した子猫に思いっきり噛みつかれ逃げ帰ってきやがった。 情け無ねぇよ。 いつもはノロノロとしか動かないクルツが、しなやかな動きを見せて風呂場に向かって走っていく。 たぶんネズミの気配でも感じたんだろう。 風呂場の排水溝をじっと見つめて動かない。 雪が消えたとはいえ北海道の春はまだ寒い。 ましてや風呂場に暖房はない。 にもかかわらず微動だにしない。 凄い集中力だ。 1時間後。 鼻水を垂らしてクルツは戻ってきた。 何も獲らずに……はぁ、オマエ何しに行ったんだよ。 * * * 「親父、アメリカザリガニ知らねぇ?」 「アメリカザリガニ? 知っているぞ。 アメリカ原産の淡水性甲殻類、成体体長は約13センチ、体色は主に赤褐色で青や白色個体もいる。 日本には昭和2年に20匹が輸入され、その旺盛な繁殖力から今や全国の河川湖沼に住み着いている」 居間のソファーに寝転がっていた親父は、テレビに顔を向けたままよどみなく答える。 さすがは学者先生、って違う! 「蘊蓄はどうでもいいんだ。 俺のアメリカザリガニを知らないかと聞いてるんだよ」 「なんだつまらん。 せっかくこれからアメリカザリガニの料理法を色々語ってやろうと思ったのに」 親父は身を起こしタバコに火をつける。 「いらね。 それよりアメリカザリガニを見てない?」 「見てないぞ。 逃がしちまったのか」 「たぶん。 朝起きたらいなくなってた。 親父、まさか料理の材料にしてないだろうな?」 「1匹だけじゃ鶏のマレンゴ風も作れんしなぁ……」つまらなそうに煙をはき出す。 じゃあ俺がアメリカザリガニをいっぱい飼っていたら料理する気なのかよ。 息子のペットを食うなよな。 グレるぞ。 「見つけたら教えてよ」 親父はまた横になって「あぁ」とも「おぅ」ともつかない気のない返事が返ってきた。 親父は期待できねぇな。 それにしてもどこに行ったんだよ。 俺のザリガニちゃん。 ん? ザリガニ君かな? あいつ雄なのか雌なのか? どっちでもいいけどさ。 高校3年生にもなってアメリカザリガニを飼っているなんて、幼くて十分変だと言うことは自覚している。 俺だってこんな生き物を飼う予定はなかったけど。 昨日の土曜日、近所の神社で夏祭りがあった。 中学校時代の友達に祭に誘われたのがアメリカザリガニへの第一歩。 3年ぶりに行った祭の高揚感が俺に伝染したのが第二歩。 生まれて初めて見たザリガニ釣りなる屋台への好奇心が第三歩。 からかい半分でチャレンジしたのが運の尽き。 難しいんだこれが……。 ガキどもを押しのけ、友達に呆れられながらも、俺はチャレンジし続けた。 長く辛い孤独の戦いの後、ついに体長10センチほどのアメリカザリガニを釣り上げた。 ツヤのある赤黒いボディ、ワキワキと小気味よく動き続けるハサミ。 たぶんこいつは今まで誰にも釣られたことのない歴戦の勇者だろう。 だが、しょせん畜生。 俺の手にかかればこんなもんさ……勝利の空しさってやつだろうか、財布のあたりから怨嗟の声が聞こえる気もするけど。 手に入れたのはいいが、こいつを入れておく水槽はない。 しょうがないからクッキーの空き缶に砂利と水を入れてその中に放り込んでおいた。 てぃこぉん。 てぃこぉん。 てぃこぉん。 てぃこぉん。 何が楽しいのかアメリカザリガニは缶の隅っこでモソモソやっている。 うるせぇ。 てぃこぉん。 てぃこぉん。 てぃこぉん。 てぃこぉん。 俺が布団に入ってからも鳴り続けている。 本当にうるせぇ。 で、朝になったら音がない。 やっと大人しくしてくれたかと思ったら、全然大人しくはなかった……いないよ。 脱走してるよ。 部屋の中を見渡しても見あたらない。 放っておけば干上がって死んでしまう。 早く捜索して救いださなければ。 と同時に、今日は週に一度の休日〈日曜日〉と言う重大事項も思い出してしまった。 捜索か休息か……。 生き物を愛する俺としては迷うことなく後者を選ぶ。 だって俺も生き物の一員だし。 失せ物ってヤツは焦って探そうとすればするほど見つからないものと決まっている。 親父にも声をかけてあるし、ここはのんびりと構えるが得策さ。 本を読んだりしているうちに午前は終わってしまった。 相変わらずアメリカザリガニの行方はしれない。 「浩之、ザリガニを探さないのか?」親父はタバコを持った手で俺を指す。 「探してるよ」 「寝転がっているだけじゃないか」 「甘いな親父。 たぶんヤツはまだ2階の俺の部屋にいる。 けど、人間の気配があると出てこないかもしれないじゃないか。 だから俺がいなくなってヤツがノコノコと出てきたところを一網打尽。 鬼神も欺く深慮遠謀よ」 「あのなぁ浩之、脊髄反応だけで喋るのはやめろ。 どうせ、今まで忘れていたんだろう」親父はため息混じりにタバコの煙を吐き出す。 ばれてる。 すべてお見通しか……付き合い長いからなぁ。 「しゃぁねぇ、クルツに探させてみるか。 アイツも一応猫だし……ん? 親父、クルツは?」 飯時には必ずいるクルツの姿がない。 「そういえばさっきからいないな。 外にでも行ってるんじゃないか」 ベランダは開けっ放しになっているからクルツの出入りは自由。 というか、ベランダのドアに鍵さえ掛かっていなければ、ドアは引き戸だからクルツは爪を引っかけて自分で開けられる。 閉めてはくれないけど。 「珍しいな。 だから静かだったんだ」 俺の家ではゴハンを作ったら、まずクルツに与え、それから人間という順番になっている。 ゴハンをやらないとクルツがうるさくてゆっくり食事ができないからだ。 それでもクルツは速攻で自分のゴハンを半分だけ食べると、すぐに人間の食卓に来て色々と食事の邪魔をする。 クルツはある信念を持っている。 それは人間のお皿のに手を出してはいけないが、直接触れない限りどんなに鼻を近づけても許されるという信念だ。 そしておかずの数ミリ前まで顔を近づけ「なぁぁ」と物欲しそうに鳴く。 たいていは家族の誰かが根負けしてクルツにおかずを分け与えることになる。 クルツは戦利品をゆっくりと食べ、狙うべき獲物がないことを確認して、おもむろに自分のゴハンの残りを食べる。 これがクルツの食事のローテーション。 だから俺の家の食事はいつも騒がしい。 とん、みぅり。 とん、とん、みぅり。 階段が軋む音が聞こえる。 みぅり。 とん、みぅり。 俺の家はぼろい木造住宅だから、階段を上り下りするだけで音が鳴る。 とん、とん、みぅり。 階段からの音は不規則なリズムと共に階下へと、居間へと近づいてくる。 クルツがよろめきながら居間に入ってきた。 顔が真っ赤だ……血? ケンカか? ひどい出血だ、ヤバイよ。 クルツは血を吹き飛ばそうとするかのように盛んに顔を振り、宙を掻くように前足を動かす。 「クルツ!」俺よりも早く親父がクルツに駆け寄り、「浩之ぃ……ひっ! あはははは!」大爆笑する。 「どうしたんだよ。 ん? …………ぶっ! なんだよそれ!」 クルツはアメリカザリガニと合体していた。 クルツの顔からアメリカザリガニが金の鯱のように上に向かって尾っぽをピンと伸ばしている。 血に見えたのは今やクルツのイカレた装飾品になっているアメリカザリガニの色。 身体の中から緊張感が一気に抜け、腹の底から堪えきれない笑いがこみ上げて……ははははははは……くっ、苦しい。 タンポポ猫になったり、こんどはザリガニ猫かよ。 オマエも忙しい猫だな。 ひょっとしてコスプレ願望でもあるのかよ。 「ひ、浩之……あははは……み、見てみろクルツの顔……あはははは」 笑いながら指差すクルツの顔は、 クルツの顔は、 クルツ……はははは。 両目を瞑り眉間に縦皺を深く刻みこんだ哲学者のような難しい顔をしている。 「猫が、猫のくせに哲学してるよ……はははは……もぉダメ、息できねぇ……」 クルツはザリガニの左のハサミをくわえ、ザリガニは右のハサミでクルツの眉間をしっかりと挟んでいる。 見事なバランスの美を作り上げ、結果アメリカザリガニ付き哲学猫のできあがり。 「あははは……オマエ、オマエどうして……そんな格好してるんだ。 あはははは……」 「ね、猫に聞くなよ親父ぃ……どうせ……ははは」 クルツが難しい顔をして頭を振る姿が目に入るたび、笑いの塊がこみ上げて話してなんかいられない。 「ど、どうせクルツが……ははは……」 おおかたクルツが脱走中のアメリカザリガニを見つけ、ザリガニの躍り食いを目論んでハサミに食らいつき、ザリガニも食われてはならじと残ったハサミでクルツを挟んだというところだろう。 「助けてやれよ浩之……あはははは」 親父は顔を歪めて笑い転げている。 表情だけ見ればクルツより親父の方が苦しそう。 「で、でも……はははは」 どちらか一方が戒めを解けば苦行は免れるのだが畜生の浅ましさ。 そこまで頭が回らないようだ。 あっちへ、こっちへと、即席哲学者は彷徨する。 だんだん哀れに感じてきたよ。 しょうがねぇなぁ。 「親父、笑ってないでクルツを押さえてくれよ。 俺が引っぺがすから」 「お、おう……あはははははははは」 親父は目に涙を浮かべて頷く。 あ、親父が泣いているの初めて見たよ。 クルツもアメリカザリガニも一応無事に分離を果たした。 クルツはやたらと前足で眉間のあたりを擦ってはいたが。 「クルツ、あんたザリガニに食べられそうになったんだって。 無事で良かったわねぇ」 昼間の顛末を聞いた母さんはクルツを抱き上げ阿呆なことをほざいている。 どこの世界にアメリカザリガニに食われる猫がいるんだよ。 逆だろう逆! クルツは6キロあるんだぜ、1000匹のザリガニが一斉に襲ってくるならともかく……1000匹のザリガニを体中にくっつけたクルツ。 真っ赤な鎧を着たみたいで格好いい……わけないな。 「ザリガニに襲われても必死に反撃したのね。 クルツ勇気あるわね」 母さん、それはたぶん逆です。 いや、確実に逆。 俺たちの話をどう聞いたらそんな発想になるんだよ。 「で、このザリガニがクルツを襲ったのね」クッキーの空き缶に入ってるアメリカザリガニをのぞき見て母さんは言う。 「ああ」 本当は違うけど。 面倒くさいから訂正せずにいた。 「クルツが怖がってるわよ。 そんなところに置いておかないで」 クルツはいたって普通の顔だ。 どちらかというと前足の下に手を入れて持ち上げられているのが迷惑という表情にも感じられる。 雨の日の朝。 寝不足で起きる朝。 おねしょした朝。 テストの日の朝。 体調の悪い日の朝。 夏休みが終わった翌日の朝。 人によってそれぞれ嫌な朝はあるだろう。 俺は吹雪の朝が一番嫌いだ。 普通の雪ならば問題はないのだが、横殴りに雪が降ると吹きこんできて扇状地のように雪が積もる。 室内に。 信じられねぇ。 北海道の家は二重窓といって、寒気対策のために窓が二重になっている。 窓と窓の間に空気の層を作って外気を遮断するためだ。 その代わりに本州の家にある雨戸がない。 雨戸なんて閉めた日にゃ凍り付いて、冬眠中の熊よろしく春まで真っ暗な日々を送らなきゃならなくなる。 ところで俺の部屋の内窓は建て付けの悪さから半分しか閉まらない。 外窓のガラスは割れている。 そのうえ北海道の住宅なのに部屋には暖房器具がない。 いや、ポット式石油ストーブはあるが石油を2階まで運ぶのが面倒で使っていない。 早く布団に入って寝ちまおう。 今夜は吹雪になりそうだな、明日も雪かきかぁ。 ああ、もう考えたくねぇ。 だから考えるのやめた。 世の中に寝るほど善きことはなかりけり。 おやすみなさい。 りゅゅゅほぉぉぉわ…………風が出てきたな。 明日も雪かきかよ………… りゅゅゅほぉぉぉわ………………ハデに積もらなきゃいいけど……………… りゅゅゅほぉぉぉわ……………………どうでもいいや…………………… 寒っ! 全身を締めつけられるような冷気で目が覚めた。 いや、覚まされた。 でっ! 身体がほとんど布団から飛び出てる。 今の俺は布団の横で寒さに身体を縮こまらせ、布団がかかっている部分は足先だけという悲惨な状況。 『浩ちゃん、冷えは足元から来るからね。 足元さえちゃんと温かくしておけば風邪知らずだよ』って、教えてくれたのは3年前に死んだ婆ちゃんだけど……風邪を知るよりも先に生命の根幹に関わるヤバイ状態になりそうです。 このままだと婆ちゃんと再会できそうな予感がします。 て、洒落になってない! あわてて布団から出た。 足先だけ。 危ねぇ、危ねぇ、目が覚めて良かった。 あと少し寝続けたら凍死していたよ。 「嫌な朝だ」独りごちると言葉は真っ白になって口から逃げていく。 窓から差し込む光は白々しいほど眩しくって、部屋に積もった吹きだまりをキラキラと輝かせている……吹雪は止んだようだな。 でも雪は積もっているし、全身痛いほど冷たいし、勘弁してくれよぉ。 俺は寝相が良い方ではない。 夏場なんかは枕が足の下にあったり、布団と関係ない所で寝ていたりとバリエーションは豊富にある。 でも冬場はさすがに大人しい。 本州の家なら、いや北海道の家でも暖房があるならともかく、極寒の俺の部屋で寝相が悪いのは死に繋がる危険がある。 それに毛布という物が嫌いで真冬だろうと敷き布団1枚、掛け布団1枚しか使わないという俺のダンディズムがある。 結果、冬場の俺は胎児のように丸くなって寝ている。 いつもは……。 なんで俺は死の危険を冒してまで布団の外で寝てたんだ? ん? 掛け布団の中央が不自然に盛り上がっている。 いかにも自分の布団でございとばかり弛緩した表情さえ浮かべてる。 俺は死に至らんばかりの寒さ〈死寒〉を味わっていたのに。 どうやら俺はクルツに布団から押し出されたようだ。 丸くなった猫饅頭のクルツが俺に身を寄せるたび、俺は無意識に身体を横にずらす。 それを何度も繰り返し……。 「てめぇ」 クルツは俺を一瞥すると、こんどは丸くなって寝続ける。 こ、殺すぞ! 本当は殺されかかったのは俺の方だけど。 「いい根性してるじゃねぇかよ」 俺はクルツを抱きかかえ階段を下りる。 俺は眠気もぶっ飛ぶ爽快な目覚めをさせられたけど、寝ぼけているのかクルツはなされるがまま。 「おはよう浩之、今朝は早いわね。 あらクルツも一緒で仲良しね」 殺人未遂を知らない母さんの脳天気な挨拶に、「当然だろう。 仲が良すぎて殺したくなるくらいさ。 ふふふふ」なんだか無性に笑みが湧いてきてしまう。 「変な表現しないでよ。 クルツに起こしてもらったの? 早起きは三文の得って言うからいいことあるわよ」 「その言葉実感したよ」三文どころか、早起きのお陰で命を拾いましたよ。 「母さん、悪いけど玄関開けてくれないか」 「いいけど、どうしたの?」 寝ぼけるクルツのヒゲをいじって遊んでいた母さんが不思議そうに俺を見る。 「クルツに早起きの御礼がしたいんだけど、両手がふさがってるからさ」 何それ、と言いながらも母さんは玄関を開けてくれる。 玄関の向こうには真っ白な空間がどこまでも広がっている。 鳥の足跡もない純白のパウダースノーが40センチは積もっている。 「お前のおかげで布団のありがたみが分かったぜ!」 クルツを両手で高々と掲げ、白いフィールドへ完璧なスローイン。 クルツは綺麗な放物線を描き、 ずもっ 見事埋まった。 「なぁぁあうん」不満じみた声が新雪の向こうから聞こえる。 でも雪に埋もれて姿は見えない。 ざまあ見ろ! 「浩之、クルツが可哀想じゃない」 そう言いながらも母さんもクルツを助けにいくそぶりは見せない。 「いいんだよ。 俺とクルツは仲良しなんだから。 スキンシップさ」 「でもクルツ全然見えないわよ。 大丈夫かしら……あっ、見えた」 純白の世界に虎柄の尻尾が現れた。 新雪に埋もれたクルツはジャンプもできず、短い足で一生懸命雪を漕いでいるのだろう。 尻尾はフラフラとせわしなく揺れている。 なんだか潜水艦の潜望鏡みたいだな。 「見て見て浩之。 尻尾がもこもこ動いて可愛いわよ。 あっ、こんどは右に行ったわ」 母さんはやたらと喜んでる。 ところで『もこもこ』って何ですか? 「クルツ、そっちじゃないわよ。 もっと左よ左」 母さんの声に反応するかのように尻尾は少しだけ左に揺れる。 「そうそう、そのまま真っ直ぐ」 母さんの声がするたびにクルツの尻尾はもこもこ揺れる。 まるでラジコン操縦だな。 「だから違うわよ。 右、右」 楽しそうだな。 ま、頑張ってくれ。 俺は音声入力でクルツを操縦する母さんを残して居間に向かう。 「おっ、今日は早いな」 「まぁ色々あってね。 親父はもう会社に行くの?」 出勤が早いから親父の顔を朝から見るのは久しぶりだ。 「もう少ししたら出る。 そうだ浩之、せっかく早起きしたんだから雪かきしろよ」 勘弁してください。 身体が冷え切っていてそれどころじゃないんです。 「雪かきなら母さんが音声入力式クルツを遠隔操作してラッセル中だよ」 「なんだそりゃ?」 「玄関に行けば分かるよ」 俺はストーブの前に陣取って熱いお茶を淹れる。 もうクルツも母さんもかまっていられない。 体を温めないと……美味い。 お茶の熱さが身に染みる。 「クルツそっちじゃない。 表通りの方に行くんだ。 会社に行くための道をつくれ」 「こっちでいいのよクルツ。 こっちこっち」 「違う違う右に行くんだ」 「そっちに行っちゃダメよ。 戻って戻って」 玄関から親父と母さんの声が聞こえる。 どうやら音声入力は混線しているようだ。 朝っぱらから夫婦揃ってなにやっているんだか……。 夏場だったら風通しの良い板の間、冬場はストーブ前のソファーの上がお気に入り。 そして1日の中にもローテーションがある。 昼間は居間のソファー、母さんが寝る時間になれば母さんの布団の上、真夜中の散歩から帰ってきた午前4時以降は俺の布団と決まっている。 クルツが入ってくるのか、俺が無意識に引っ張り込んでいるのか分からないけど、毎朝目が覚めるとクルツが布団の中にいる。 クルツがこともあろうに俺の腕を枕にして添い寝していた時は濃厚な殺意が……可愛い女の子が俺の腕を枕にしてくれるなら、寝顔を見ながら腕にかかる重みを何時間でも楽しむさ。 でも現実にあるのはデブ猫の間抜けな寝顔。 口が少し開いているし、鼻息が「しゅぴぃ、しゅぴぃ」とうるさい。 「重いんだよ、バカ猫!」 と、やりきれない想いで起きる朝もある。 逆にクルツに起こされる朝もある。 俺が寝過ごしていると顔を舐めながら顔や胸を猫按摩して起こしてくれる。 でもこれは最上の部類。 ペットを飼いたいというヤツに俺からの忠告だ。 安眠と爽快な目覚めを望むなら猫は飼わないほうがいい。 * * * 目が覚めたら日常がちょっと壊れていた。 最初に視界に入ってきたものは得体の知れない塊。 見慣れない物体が俺の顔のすぐ横にあった。 枕? いや、枕は俺の頭上の先に転がっている。 敷き布団が盛り上がって……モソらモソら動いている。 布団が、 なんだよこれ? 跳ね起きた俺が見たものは……敷き布団カバーの中でモソらモソらと蠢く奇っ怪な塊。 蠢く布団? 怪しげな動きが気持ち悪い……いままで俺はこんな物で寝てきたのかよ。 精神衛生悪すぎ。 理解しがたいのだがクルツは布団カバーの内側に入りこんでいた。 「何してるの?」 朝から見るにはあまりにもシュールな光景に、驚きよりも呆れの感情の方が多かった。 あのなぁ俺は平凡が好きなんだ、朝からワケ分かんないコトするなよな。 俺の声に反応するようにクルツの動きが激しくなる。 が、どれだけ前進しようが布団カバーは布団をぐるっと覆っているから出口はない。 逆に状況を悪化させているだけ。 「楽しいかクルツ? て、言うか、どこから入ったんだオマエ?」 あっ、布団カバーの真ん中当たりが30センチほど裂けていた。 前からそこの部分が薄くなっていたことは気付いていたけど、ついに寿命がきたようだ。 その裂け目にクルツが潜り込んで行ったんだろうけど……器用なヤツ。 「なぁん」どん詰まったクルツが不満じみた鳴き声を上げる。 俺には猫語は分からない。 でもこれだけは分かる「なぜだ?」だ。 ところがこれは布団カバーであって掛け布団じゃない。 Uターンして入った所から出ればいいのだが、そこは畜生の浅ましさ。 ただひたすら前進あるのみ。 モグラかオマエは。 「んなぁぁう」またも不満の声。 「ま、せいぜい出口を探してくれ」 朝っぱらから構ってられねぇ、俺は学校に行かなきゃならないんだ。 オマエの救出より朝飯だよ。 俺はクルツを置いて部屋を出る。 「おはよう、母さん。 敷き布団のカバーがダメになったから交換してよ」 「いいけど。 あら、クルツはどうしたの? いつも一緒なのに」 「ん? クルツはモグラごっこの最中」 母さんは両腕を脇につけ、手首だけ動かして土を掻くマネをする。 「ずいぶん大きなモグラねぇ……でも、可愛いかも」 可愛くないです。 馬鹿なだけです……。 * * * 俺の家に布団乾燥機なんて洒落たものはない。 冬場に布団を乾燥させようとすればストーブの前に並べて干すしかない。 「空に〜そびえる〜虎柄の猫〜スーパーにゃんこ〜マジンガークルツ〜」 ドアを開けた途端、母さんの脳天気な歌が聞こえてきた。 なんだよこの歌? 曲はたぶんマジンガーZの歌だと思うけど……41歳の一児の母親がマジンガーZの替え歌……開けたドアを閉めて、そのままどこか見知らぬ土地まで行きたくなるような気分。 かと言って、金もないし、一応学校もあるし、なにより冬場に旅になんか行きたくない。 それにバタバタうるさいのも気にかかる。 俺は覚悟を決めて歌声のする方に向かった。 「空に〜そびえる〜虎柄の猫〜スーパーにゃんこ〜マジンガークルツ〜」 リフレインしてるし……。 「恥ずかしいな、何の歌だよ」 「おかえり浩之。 何の歌って、マジンガーZの歌よ。 覚えてない?」 覚えてない? って、ガキのころ再放送で観たことあるけど……俺の知っている歌はこんな馬鹿な歌じゃなかったです。 「歌詞が違うでしょう。 なぁ……それより何してるの?」 「クルツと遊んでるのよ」 母さんは干していた俺の敷き布団を引っ張り回してる。 おまけに布団にしっかりと爪を食い込ませたクルツがぶら下がってる。 「見て、見て、浩之。 まるでクルツが空を飛んでいるみたいでしょう。 スーパーにゃんこマジンガークルツよ」 「マジンガークルツって、意味わかんねぇ」 「浩之は硬いわね。 感性よ、感性。 クルツは分かってくれるわよね」 そんな感性いらね。 クルツだって、ただぶら下がっているだけじゃん。 「何でそんなコトしてるんだよ」 「布団を片づけようとしたら、布団の影にクルツが隠れてたのよ。 それでね」 母さんは布団を左右に振る。 クルツは興奮して布団をよじ登ろうとする。 「ほら、クルツが喜んじゃって」 「いい加減にしろよ。 それ俺の布団だぞ、破れるだろう」 「大丈夫よ」 その根拠はなんだよ。 「クルツ行くわよ」 前屈みになった母さんは勢いをつけて布団を引っ張り上げる。 ビッとも、ギリッともつかない音が響く。 「あっ!」 俺と母さんの声が見事なまでに重なり合った。 マジンガーなクルツは強かった。 俺の布団を完膚無きまでに引き裂くほど。 トルコ音楽のアクサク旋法じゃないんだから奇妙なリズムにするなよ。 真面目にやれ!」 クルツはソファーの上で丸くなったまま、耳だけを俺の方に向ける。 「えっと、こりゃ16分音符ぐらいかな。 スピードはアレグロどころじゃないなアレグリッシモぐらいだな」 俺はペンを握り直しノートの上に「Allegrissimo」と書き込む。 「さぁ、いくぞ」 ソレが作り出す僅かな差違も見逃さないよう意識を集中させ、正確に動きを捉えるべく腹這いになる。 ソレは俺の眼前でせわしなく動いている。 サボるなクルツ!」 俺は五線譜代わりのノートを放り投げ、ソレを思いっきり叩いた。 「みゅぅな!」 クルツは奇妙な抗議の鳴き声をあげる。 「文句言うんじゃねぇ。 さっき報酬のベビースターラーメン食わせてやったろう。 さっさと動かせよ!」 クルツはへそを曲げたようで、俺の言葉も猫耳東風(にゃじとうふう。 意味は……なんでしょう?)。 無視を決め込んでいる。 「浩之、さっきから何しているの?」 俺の上から声が降ってきた。 見上げると腕を組んだ母さんが首をかしげている。 「クルツの尻尾見ながらブツブツ言って、気持ち悪いわよ」母さんは危ない人でも見るような目で俺を見ている。 「私こんな変な子供を産んだ覚えはないわよ」 「変ってなぁ、俺はクルツの尻尾を見て作曲しているだけだよ」 母さんの動きが一瞬止まり、「そ、そうなの。 作曲しているの……クルツの尻尾で……頑張ってね……」俺の視線を避けるように台所へと行ってしまう。 なんなんだよ? 作曲のジャマしやがって。 「浩之、コーヒー淹れたわよ。 ひと休みしない」 「ああ」ずっと腹這いで顔だけ上げていたため、いい加減首も凝ってきたところだ。 「ありがとう」 いつもより濃いめ目だけど美味い。 酸味のきいた苦みが、作曲に疲れていた頭に刺激を与えてくれる。 ただ、コーヒーはありがたいんだけど…… 「なに? 言いたいことでもあるの?」 母さんの視線が気になってしかたがない。 さっきから俺を監視するようにじっと見ている。 「ねぇ、浩之……なにかあったの?」 「なにもないよ。 今日だってちゃんと学校に行ったし、授業だって6時間受けてきたし、昼飯だって残さず食ってきたろう」 「だったら悩みとかあるの? ひょっとして受験のこと? それとも人間関係? まさかとは思うけど恋愛関係?」 母さんはコーヒーカップを両手で包んだまま、口をつけることなく聞いてくる。 「なんだよ、俺が恋愛で悩んじゃいけないのか。 失礼だな」 「えっ、彼女いるの?」母さんの顔に好奇の表情が浮かぶ。 まるで獲物を前にした猫のような……さっきまでの深刻そうな表情はなんだったんだ。 獲物が見つかった途端、急に生き生きしたがって。 ましてや獲物が俺だと……冗談じゃない。 「ど、どうでもいいだろう、母さんには関係ない」 「ふーん、関係ないわよね。 でも浩之に彼女がいるんなら、女の立場からアドバイスでもしてあげようかなぁってね」母さんの言葉には勝ち誇ったような、バカにしたような響きが含まれている。 俺に絶対彼女がいないと決めつけてやがる。 そりゃ彼女だって言い切れる女の子はいないけど、俺にだって付き合っているような女の子はいるんだ……同級生で、とある会社の重役の愛人をやっているけど。 そんなことはどうでもいい、 「変なこと言うなよ」 「変なのは浩之でしょ。 本当に何していたのよ」 「さっきも言ったろう作曲だよ。 暇つぶしに作曲してただけだよ」 「あんた音痴じゃない。 センスもなさそうだし、作曲なんてできるの?」 少しは自分の子供の可能性に期待しろよな。 「音痴で悪かったな、センスもねぇよ。 だからクルツに手伝わせているんだろう」 「どうやってクルツで作曲するのよ」 「ソファーに紙を貼っているだろう……」 俺はクルツが寝ているソファーの横に目印を書いた紙を貼った。 尻尾の真下がC音、そこからほぼ2センチ単位でD、E、Fと音が高くなっていく。 だからクルツが尻尾を振った位置を記録すれば、人智を超えた斬新な曲ができるはず……。 「あんなものまで作って作曲ごっこしてたの……あんた受験生なのよ、馬鹿なことしてないで少しは勉強したら……大学に行きたいんでしょう」 「ひょっとしたら凄い名曲になるかもしれないじゃん。 世界的な有名人になれるかもしれないんだぜ。 そうなったら大学なんてどこでも入れてくれるさ」 母さんは小さく息を吐いてコーヒーに口をつける。 「はぁ。 夢を見ることはいいことね。 それが悪夢でも……で、曲はできたの?」 「ん? まぁ、なんと言うか……クルツって音楽センスなくてさ」 「そうなの……」母さんはまた小さく息を吐く。 「クルツ、浩之が音楽センスないって言ってるわよ」 母さんはソファーのクルツに大声でチクりやがった。 耳だけ動かしたクルツは返事代わりに尻尾を動かす。 4分音符のE、C、C、4分休符、E、H、H、4分休符、A、H、C、D、E、E、E……。 * * * 「I've paid my dues Time after time……」 学校から帰ってきたら、親父が歌っていた。 えっ? 珍しい……。 6時間目をサボって早退してきた俺より親父が先に帰ってきていることも珍しいけど、親父が歌っていることの方が俺には珍しい。 「We are the champions my freinds……」 曲はクイーンの『伝説のチャンピオン』。 ただし、ちょっと編曲されている。 テンポが速かったり、部分によっては妙に引き延ばされている。 そういえば、出張の代休で今日は休みだと言っていたっけ……でも、午後からは会社に顔を出すとも言ってたよな。 ひょっとして会社に行ってないのか。 息子は辛い授業を5時間も受けてきたというのに……自分はサボりか、いい身分だよ。 嫌味のひとつでも言ってやろうかな。 けど、俺の言葉は口から出ることはなかった。 親父の背中から鋭い気迫が発せられている……17年間で初めて見る親父の気迫。 軽々しく声なんてかけられない。 親父は何かに熱中している。 たぶん俺が帰ってきていることにも気付いていないと思う。 「We are the champions my freinds……ほら、もっと脇を締めるんだ」 親父は四つんばいになってクルツと対峙していた。 そして伝説のチャンピオンを歌いながら、猫じゃらしを微妙なリズムで動かしている。 41歳の男が家族も仕事も忘れ猫と真剣に猫じゃらし……こんな大人にはなりたくないなぁ。 ワキワキと動く猫じゃらし。 クルツも身体を床にぴったり着けやる気満々。 素早い猫パンチが飛ぶが、親父の猫じゃらし操作も見事なもの。 僅かの距離でクルツのパンチをかわす。 「大振りするな。 腕はすぐに戻すんだ。 腕を伸ばし放しだと相手に踏み込まれるぞ。 だから脇を締めて素早く戻す」 こんどはクルツの鼻先でゆっくりと動かす。 クルツは前足をちょんちょんと小刻みに繰り出す。 「そうそう、ジャブはそれでいい。 とにかく相手の軸線を崩すんだ」 親父は伝説のチャンピオンを口ずさみながらクルツに指示を与える。 またも猫じゃらしを大きく振る。 クルツはワン、ツーと猫じゃらしに切れのいい猫パンチを立て続けにヒットさせる。 「よし、よし、ストレートは伸びてるぞ。 クルツ、お前なら世界を狙えるぞ」親父の声は真剣そのもの。 でも、世界? 世界って何よ? ともかく親父の頭の中ではクルツと拳で世界を狙う構図ができあがっているようだ。 クルツは6キロあるからスーパーヘビー級か? ジャブ、フック、ストレート、ジャブ……親父の指示で特訓は続いている。 熱が入るにつれ親父の歌う伝説のチャンピオンもテンポが速くなる。 「いいぞクルツ。 次はアッパーだ!」 親父は猫じゃらしを高く上げる。 「ちょっと待てよ親父。 さすがにアッパーは無茶だろ」 アッパーってな……猫がどうやって前足を振り上げるんだよ。 猫の身体構造からみても無理があるだろうが。 「えっ? 浩之、帰っていたのか」振り返った親父の顔は真っ赤。 「お前いつからそこにいたんだ?」でも、猫じゃらしはまだ、ふよふよと動かしている。 「親父が伝説のチャンピオンを歌い出したぐらいから」 「見てたんだな」 「うん。 親父がクルツとボクシングのチャンピオンを狙う一部始終を」 「あ……」 猫じゃらしを持つ親父の手が止まった。 興奮しきっているクルツの前で……。 ふにゃぁにゃふん。 「痛ぇ! バカ、爪が食い込んでいる! 噛むな! 痛っ!」 クルツは前足も、後ろ足も、牙も、全て使って親父の手にぶら下がっている。 クルツはキックボクシングで世界を狙うつもりのようだ。 動物園ならともかく日本に野性のハゲタカはいない。 ましてや、ここは俺の家の居間だ。 ハゲタカなんかいるはずもない。 それはわかっている。 けれど獲物のすぐ側で相手が弱るのを見極める冷徹な視線はハゲタカ以外何物でもない。 ハゲタカは俺が座るソファーの背に乗っかって黙って見下ろしている……この日本に生息しないはずのハゲタカの名前はクルツという。 「見るな! 見てたってやらないからな!」 俺はクルツを牽制しつつ竹輪をくわえる。 「美味い」 いけるよこの竹輪。 カジカはカジカでも海にいるカジカで、見た目はアンコウを小さくしたようなグロテスクさはあるけど味は良い。 ただクルツの態度が気になって仕方がない。 さっきから「にゃぁ」とも鳴かず、俺の動きに視線をまとわりつかせている。 いつもなら「くれくれ」とうるさく騒ぐくせに、今日はじっと見ているだけ。 なにを企んでいるんだ……? だけど竹輪はやらないぞ、俺だって腹が減っているんだからな。 チーズかキュウリでも挟めば良かったかな……いまさら立ち上がるのも面倒だし、竹輪ももう残り少ないし、なによりクルツが不気味でしょうがない。 早く食べてしまおう。 残り2本というところでクルツが動いた。 俺のくわえる竹輪目指してクルツが近づいてきた。 バランスを崩さぬよう俺の肩に前足を置き、耳を後ろに倒してゆっくり顔を寄せてくる。 竹輪までの距離およそ1センチ、ここで動きを止め盛んに鼻をヒクヒクさせる。 さらに右の前足を上げ、ちょこちょこと動かす。 まるで前足を動かしていれば、竹輪が自ら自分の元に来ることを信じるがごとく……小首をかしげたり、ヒゲを前後に動かしながらしきりに前足で宙をかく。 ひょっとして招き猫のまねでもしているのか? クルツがいくら招き猫を実践しようが竹輪をくれてやる気はない。 「ジャマだ」クルツの頭を軽く叩いた。 「なぁ」と、不満の鳴き声をあげ、ソファーの背に戻っていく。 だからクルツからすれば規則を破っていないのに、叩かれたのは理不尽極まりないということになるのかもしれない。 後ろを向いたまま不機嫌に尻尾を盛んに振る。 てしてし、ぺし。 てしてし、ぺし。 振るたびに尻尾が俺の顔に当たる。 痛くはないが鬱陶しい。 「クルツやめろ」 てしてし、ぺし。 てしてし、ぺし。 てしてし、ぺし。 てしてし、ぺし。 嫌がらせのつもりか、やめる気配は全然ない。 てし、ぺし。 てし、ぺし。 てし、ぺし。 てし、ぺし。 テンポまで速くなってきやがった。 6キロの巨躯が宙を舞うようにして俺の顔の前をすり抜け、 「いてーぇ! なにしやがるんだバカ猫!」 くわえていた竹輪を俺の唇ごと囓り奪い取っていった。 クルツは竹輪をくわえたまま台所の方へと吹っ飛んでいく。 「クルツ!」 唇を噛まれた恨みを晴らさないことには腹の虫が治まらねぇ。 「クルツ! 出てこい!」 「うるさいわよ」 隣の和室から母さんが顔を覗かせる。 髪の毛が乱れているし、目が焦点を結んでいない。 姿が見えないと思ったら夕飯の準備もしないで寝てやがったな。 「どうしたのよ、大きな声出して?」 「クルツが竹輪を奪っていったんだよ。 俺の唇ごと」 「へゅ? 浩之、クルツに唇奪われたの?」 「妙な言い方するなよ」 「まぁオス同士でイヤらしいわね」 「イヤらしいって……」 「お母さん、一人息子がホモは嫌よ」 なに言っているんですかこの人? 母さんは目をしばしばさせながらアクビを噛み殺している。 ていうか、まだ寝ぼけてるよ。 なにが悲しくて猫とホモらなきゃいけないんだよ……これ以上話していたら気がおかしくなりそうだ。 「もういい……母さんは寝ててくれ。 夕飯は俺が作るから」 「ん、そーする……本当にホモは嫌よ。 私、孫の顔が見たいもん」 「うるせぇ! 早く寝てくれ!」 母さん、あなたの一人息子は女の子にモテませんが、猫に恋愛感情を持つほどストライクゾーンは広くありません。 * * * 夕食後、ごろごろしていたら、 「浩之、入るわよ」 断りもなく母さんが俺の部屋に入ってきた。 ま、断ろうにもクルツが出入りするからドアは開けっ放しになっているけどさ。 「いい物買ってきちゃった。 見せてあげようか」 「いらね。 どうせまたパンツだろう、見たくねぇ」 「ちがうわよ。 もっといい物。 とーってもいい物」 小さな紙袋をつまみ上げながら母さんはニコニコしている。 どうやら俺が袋の中身を訊ねるまで引き下がるつもりはないようだ。 「はぁ、わかったよ。 で、なに買ってきたんだよ?」 「これよ。 可愛いでしょう」 袋から出てきたのは赤銅色のカウベル。 あの牛の首にぶら下がっているカウベルのミニチュアだった。 500円玉ぐらいの大きさで深紅の紐が付いている。 「音もちゃんと鳴るのよ」 紐をつかんで振ると、 くぉろぉん、くぉろぉん。 くぉろぉん、くぉろぉん。 金属がぶつかり合う乾いた音がする。 「可愛いけどさ、こんなものどうするんだよ。 俺はいらないよ」 「浩之にあげるんじゃないわよ。 これはクルツにあげるの。 で、」母さんはキョロキョロと部屋を見渡す。 「クルツはいないの?」 「いるよ、そこに」 俺は本棚を指差す。 「ねぇ浩之、クルツは何しているの?」 「俺に聞くなよ。 クルツが勝手にやっているんだからさ」 「面白いのかしら?」 クルツは本棚とタンスのわずか15センチほどの隙間に挟まっていた。 まじめくさった顔で置物の猫か狛犬のような格好をしている。 さっき俺の部屋にきたクルツは虫でも見つけたか、本棚とタンスの隙間に入って行きタンスの裏でゴソゴソやっていた。 柱が飛び出している関係でタンスは壁にくっついてはいないから、タンスの裏にはクルツの隠れ家になるくらいの空間はある。 ただし綿ぼこりがメチャクチャ溜まっているから、クルツもめったに寄りつかない。 珍しく今日は奥へ入って行ったあげく、素直に出てこないで隙間で置物のまねごとをしている。 ちょっとビチビチに詰まっている感じもするけど……。 猫はなにを考えているか分からないから嫌いだという人がいる。 猫好きの俺としてはそれは冤罪だと言いたい。 が、クルツを見ていると否定できそうにもない。 なにがしたいんだよ。 ワケ分かんねぇ。 「クルツおいで、いい物あげるわよ」 母さんはクルツを引っ張り出し、首にカウベルを結びつける。 クルツはなされるがままだ。 金属製だから結構な重さがあるだろうに嫌がるそぶりすら見せない。 「カウベルなんてどうして買ってきたんだよ?」 「ほら、クルツって首輪付けていないじゃない。 でも首輪を付けていないと野良猫と思われちゃうでしょう。 クルツって可愛いから誰かが連れて行ったら困るじゃない。 クルツも誘拐されたくないわよねぇ」 こんなデブ猫を連れて行く酔狂な人間がいるとも思えないんですけど……。 「だったら普通の首輪を買ってくればいいじゃん」 「だって普通の首輪だったら、首のお肉にめりこんじゃって見えなくなっちゃうじゃない。 これだったらどこにいても目立つでしょう」 「目立つと言うより、うるせぇから近所迷惑だと思うけど。 それに紐が何かに引っかかったら首が絞まって危ないからやめろよ」 「わかっているわよ。 可愛かったからちょっと付けてみただけよ。 あとで外すわよ」 母さんはちょっとむっとした風に語尾を強める。 「浩之って可愛くないわね。 あ、クルツは可愛いわよ。 クルツ下に行ってお父さんにも可愛い姿を見せてあげようね」 くぉろぉん、くぉろぉん。 くぉろぉん、くぉろぉん。 母さんはクルツを連れ階下に降りていった。 可愛くない息子で悪かったな。 でも、クルツだって可愛くねぇぞ、絶対に。 夜中に目が覚めた。 いや、覚まされた。 …………くぉろぉん…………くぉろぉん…………くぉろぉん…………くぉろぉん。 遠くから聞き慣れない音が近づいてくる。 …………くぉろぉん…………くぉろぉん……くぉろぉん……くぉろぉん。 夜中の住宅街に間抜けなカウベルが響き渡る。 ……くぉろぉん……くぉろぉん……くぉろぉん……くぉろぉん。 いま表通りの雑貨屋辺りかな。 くぉろぉん、くぉろぉん。 くぉろぉん、くぉろぉん。 音が少し大きくなった。 角を曲がったな。 クルツの動きが手に取るようにわかるよ。 頼むよ母さん。 カウベル外すの忘れているじゃん。 くぉろぉん、くぉろぉん。 くぉろぉん、くぉろぉん。 いまや音ははっきりと聞こえる。 くぉろぉん、くぉろぉん。 くぉろぉん、くぉろぉん。 「浩之、何とかしろよ」 「親父こそ家長の権限で止めてくれよ」 「止められるわけがないだろう。 母さんあんなに張り切っているんだぞ」 「だからだよ」 「無理だ」 「そうだよなぁ」 俺と親父は溜息をつきつつ台所に目をやる。 母さんがシティーハンターの歌を口ずさみながらガチャガチャと準備をしている。 シティーハンターというかアニソンは危険だ。 母さんがやる気を見せた時にはアニソンを歌うことが多い。 特に調理の場合は母さんの言うところの『創作意欲』に火がついている証拠なんだ。 どうしてこんなことに……。 事の起こりは1時間前。 珍しく母さんの帰宅が遅かった。 「遅くなってごめんねぇ。 お詫びじゃないけど、お土産があるのよ」母さんは手に提げた紙袋からビニール袋を取り出す。 「仕事先でもらったのよ」 それはイボイボしてでろっとした海産物。 「ナマコかよ」 俺はナマコがあまり好きではない。 酢の物にしたヤツを食べようと思えば食べられるが、自ら進んで食べたいとは思わない。 「そうよ。 丸々と太って美味しそうでしょう」 「酢の物か。 だったら今日は日本酒にするかな」 親父は酒の肴ができたことを喜んでいる。 「ごめんねぇ、たくさんはないから酢の物は次回にしてもらってもいい?」 「ん、まぁいいけど……」酢の物に未練があるのか、親父の歯切れは悪い。 「でも、酢の物じゃないなら、どうやって食べるんだ?」 「ほら、浩之はナマコの酢の物好きじゃないし」 いえ、母さん。 俺はナマコの酢の物が好きじゃないわけではなくって、ナマコそのものが好きじゃないんです。 「それにね、お友達と行った中華料理屋さんで『ナマコのココナッツミルク煮』というの食べたのよ。 味はそれほどでもなかったけれどね、こんな料理法もあるんだなぁって感心したのよ。 なんだか私も挑戦してみたくなってきたのよ」 いま母さんの目にはメラメラと創作意欲という炎が浮かんでいるのかもしれない。 でも俺には分からない。 だって、母さんの「挑戦」という言葉を聞いた時点で、無意識のうちに俯いてしまっていたから。 たぶん親父も同じだろう。 小さな溜息が聞こえたし……。 「待っててね、急いで作るから。 今日は頑張るわよ」 あれから1時間。 母さんは台所に籠もって創作に集中している。 時折、アニソンを中断してクルツに「どんな風に作ろうか?」とか、「クルツはどんな料理がいい?」なんて聞いている。 クルツに料理法を聞くこと自体が間違いだろう。 いや、ナマコで創作料理すること自体が神をも恐れぬ所行かも…………そう遠くないうちに俺たちに神罰が当たりそうだけど。 シティーハンターの歌が大きくなった。 ん? 台所からカレーの匂いが漂ってくる。 「お待たせ。 親父は食品会社の研究者だけど、けっこう出張が多い。 出張すれば必ずと言っていいほど土産をもってくる。 家族サービスのつもりか、それとも出張先に押しつけられるのか知らないけれど、たいていは特産品だの新製品を抱えてくる。 「浩之、いい土産があるぞ」 親父は居間に入ってくるなり小さな段ボール箱をテーブルの上に置く。 今回の出張先は富良野だから、 「ラベンダー風味のお菓子か?」 「甘いな。 そんなありきたりなものじゃないぞ。 もっとインパクトのあるものだ。 早く開けてみろ」 親父は笑みを浮かべながら俺を催促する。 親父が催促する時はろくなことがない。 いや、ウケを狙って敢えて変なのを選んでいるフシがある。 「親父、こんどは何を企んでいる?」 「企むとは心外だな。 これは出張先の会社の人がワザワザ『息子さんに』ってもってきてくれたんだ。 そう珍しいものじゃないけど、相手の善意に疑念を向けるのは失礼だぞ」 「じゃあ、これは親父が見繕った土産じゃないんだな」 俺は軽く叩いた。 中身は小さいのか軽い音が返ってくる。 「ねぇ、浩之。 お父さんもこう言っているんだから、早く開けましょうよ。 凄い物かもしれないじゃない、早く見ましょうよ」 「いま親父が珍しくないって言ったばかりだろう」 「そうだっけ? 細かいことはいいじゃない。 早く、早く」 母さんはガキみたいに興奮している。 クルツもテーブルに上がって段ボール箱をクンクンとしきりに嗅いでいる。 しゃあねぇ。 「もう一度聞くけど、本当に親父が選んだ土産じゃないんだな」 「お前も疑い深いな。 堀田食品の社長が自らもってきた土産だぞ。 そんなに信じられないなら堀田社長に電話してみるか」 「分かったよ。 「きゃぁぁぁ!」 「わぁ!」 のぞき込んでいた俺と母さんは同時に数歩後ずさる。 クルツだけが段ボール箱に前足をかけ顔を突っ込むようにして臭いを嗅いでいる。 「蛇じゃないかよ」 親父はニコニコしながら頷いている。 「富良野で捕れたばかりの新鮮なシマヘビだ。 毒はないから安心しろ」 「なにが新鮮なシマヘビだよ。 食材じゃないんだから新鮮もへったくれもないだろう。 気色悪いなぁ、どうするんだこれ?」 「飼うんだよ。 浩之が」 当然じゃないかとばかり、親父は言い切りやがる。 「蛇なんて飼いたくねぇよ。

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